錆びたナイフ

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2023年10月30日
[映画]

「真夜中の虹」 1988 アキ・カウリスマキ


「真夜中の虹」



舞台はフィンランド.
炭鉱が閉山になり、職を失った主人公カスリネン(トゥロ・パヤラ)は、父親からバカでかいキャデラック車をもらって都会へ出てゆく.
(父親は、将来を悲観して自殺してしまった)
雪が舞うこの国で、幌が壊れたオープンカーという場違いぶりが、この映画を象徴している.
旅の途中でチンピラ強盗にあい、カスリネンは有り金を失う.
サングラスをかけると「コーストバスターズ」のダン・エイクロイドにそっくりなこの男、よほど運が悪い.

都会で日雇い仕事をするカスリネンは、イルメリ(スサンナ・ハーヴィスト)と出会う.
この女、シングルマザーで、いろんな仕事を掛け持ちしている.
ふたりは出会ったその日にベッドイン.
生活に疲れたような、ポヤンとした表情のこのヒロインがいい.
その子供はカスリネンになつくでもなつかないでもなく、この生活に溶け込むかと思いきや、
カスリネンはかつての強盗の一人と出くわし、争いになって逮捕され、刑務所に入れられてしまう.
心底運の悪い男なのだ.
映画は、不条理な社会に反抗するのでも文句を言うのでもない.
刑務所で、ミッコネン(マッティ・ペロンパー)という男と同室になる.
カスリネンは面会に来たイルメリに、結婚してくれと言う.
カスリネンとミッコネンは脱獄する.
海外へ脱出するための資金稼ぎで、二人は闇組織に接触し、銀行強盗を働き、しまいに組織とのいざこざで、ミッコネンは刺され、カスリネンは組織の人間を射殺する.
アクションとサスペンスのハラハラドキドキ展開というのでなく、たんに成り行きでそうなってしまう.
ミッコネンは、キャデラックのシートで息絶えるのだが、そこで動かなかった幌が閉まる、というのがおかしい.
カスリネンはイルメリと子供の三人で貨物船に乗り、メキシコへ逃亡する.
この船の名前が原題の「ARIEL」
(「虹」などどこにもない、意味不明な邦題)

この映画に流れるアメリカのロック音楽は、どうにかなるさという気にさせる.
エンディングはフィンランド語?の「虹の彼方へ」
この家族はメキシコで幸せになれるのかと問えば、どうもそうは思えないのだが、まぁ今よりいいんじゃないの・・

この監督の作品は、30年位前に「マッチ工場の少女」というのを観た.
妙な映画だった.
監督は、「真夜中の虹」(1988)「マッチ工場の少女」(1990)「コントラクト・キラー」(1990)を、“負け犬三部作”と称している.
「オフビートな笑い」というより、登場人物への同情とじれったさを感じる.
いい映画なのだと思う.

キャデラックのキーにオルゴールがついていて、それを回すと小さな音で「インターナショナル」が聴こえる.
「いざ闘わん、いざ、奮い立て、いざ」・・なんだか泣けてくる.
フィンランドを含む北欧三国は、福祉が充実していて暮らしやすい、というわけでもないらしい.
アメリカとかブラジルとか、海の向こうが希望の土地というのはなぜだろう.
友人の死は、ベンダースの 「アメリカの友人」(1977)、家族との逃避行は 「すべて彼女のために」(2008)を思い出す.
アメリカという国が、あるいはアメリカの考え方が人生を切り開く、という思いと同時に、どの国も「ウンづまって」いるのだ.
この映画に感じる「暗さ」は、絶望というのではない、来るところまで来てしまったという諦観と開放とが、ないまぜになっている.
この高福祉国家に「負け犬」がいる、ということが「希望」なのだ、という気さえしてくる.



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