錆びたナイフ

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2018年12月7日
[映画]

「アメリカの友人」 1977 ヴィム・ヴェンダース


「アメリカの友人」


ニューヨークの画家に贋作を描かせ、それをでドイツで売りさばく男トム(デニス・ホッパー).
ハンブルグの港で額縁の店を開いているヨナタン(ブルーノ・ガンツ).
台詞はドイツ語と英語がごちゃ混ぜ.
アメリカ人のトムだけが、彼をジョナサンと呼ぶ.
オークションで知り合ったこのふたり、殺人がらみの奇妙な絆でむすばれる.

冒頭から妙な歌声、不安で緊張感のある音楽.
色褪せた古い写真のような、都会の映像.
ジョナサンは友人から、血液の病気が悪化していると聞いた、という手紙を受け取る.
自分の病気のことをどうして知ったのか.
ジョナサンは医者のもとにとんでゆく.
医者は、検査結果は悪化していない、うわさは気にするなと言う.
すると次に、店に見知らぬ男ミノ(ジェラール・ブラン)がやってきて、「先が短いことは知っている」「妻と子供に金を残したいだろう」という.
ジョナサンはまた医者のもとにとんでゆく.
医者は「何年 生きられるかわからない」「5年 1年 あるいは1か月か」という.
余命が5年か1月かというのは随分乱暴な話で、こういう”不得要領”と不安が、この映画の基調(トーン)になっている.
ミノにジョナサンの病気の話をしたのはトムで、彼はハンブルクの大きな屋敷に一人で住んでいて「恐れるべきものはその恐れだ」「自分が誰か、他人が誰か、分からなくなってきた」などとつぶやいている.

ミノは、大金を払うことを条件に、ジョナサンに殺人を依頼した.
ジョナサンは拳銃を渡されて、パリの地下鉄で目的の男を射殺するのだが、これが実にじれったい、何度も行ったり来たり、やっとの事でやりとげる.
犯行はズサンだが、警察に捕まる事もなく、ジョナサンは家に戻ってくる.
いくら大金でも、見知らぬ男の依頼で殺人をするなどありえないだろう.
死の影におびえているジョナサンは、ミノの話に何かウラがあるのではないかと、考えないのだ.
その妻マリアンネ(リザ・クロイツァー)は、夫の行動に不審を抱く.

ミノから受け取った金は半分で、ジョナサンはもう一人殺せと言われる.
二度目の殺人はドイツの急行列車の車中で、これもドタバタ、あわやという時に、なんとトムが現れ、二人で殺人をやり遂げる.
走行中の急行列車から人を投げ落とすこのシーンは、緊張感にあふれている.
ジョナサンにとって、自分が死ぬことと他人を殺すことと、どちらが恐怖だろう.
ここから先の話はさらに不得要領.
殺した相手はマフィアのボスなのだが、ミノが組織から報復され、トムの屋敷にもマフィアが現れ、トムはジョナサンと一緒に彼らを倒す.
なんだか漫画を見ているような展開で、可笑しいといえばとても可笑しい.

トムを襲ったマフィアが乗って来たのはなぜか救急車で、どうやってこの始末をしようかというところへ、赤いVW車のマリアンネが現れる.
三人は一晩走って海にたどり着く.
早朝の海岸で、トムが救急車に火をつける.
疲れきったジョナサンは妻の隣で死んでしまう.
静かで、どこか滑稽で、そして悲しいシーンである.
ジョナサンは、アメリカの友人のせいで、つかの間、死の不安を忘れた.

ヴェンダースの映画は「都会のアリス 」(1973)「パリ、テキサス」(1984)「ベルリン・天使の詩 」(1987)、どれも不得要領で奇妙な魅力があった.
私は小津安二郎の映画を思いだした.
家族や友人を丹念に描いても、どこか非現実的で、みんなバラバラで、夢のようだ.
それでいて映像には、深い懐かしさがある.


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