2014年2月1日
[映画]
フランス映画
無実の罪で服役する妻(ダイアン・クルーガー)を脱獄させる男(ヴァンサン・ランドン)の話.
男は学校の教師で、子供が一人いる.
悲観して監獄で自殺を図ろうとする妻に、男は、脱獄させるしかない、と追い詰められていく.
冤罪を晴らすための行動や、真犯人を見つけるという話の展開は、ない.
脱獄経験談を出版した男(オリヴィエ・マルシャル)に、話を聞きに行くというのが面白い.
犯罪を犯すことを怖れない、とてつもない力が必要だと言われる.
親も兄弟も捨てる決心がいる.
偽パスポートを手に入れるため闇の世界に接触し、ひどい目にあう.
男の顔つきが変わる.
脱獄の前に、逃亡に必要な資金が足りず、麻薬の売人から金を奪う.
チンピラの若者が巻き添えで死にかける.
その男を車の後部座席に乗せて、映画は、そのうめき声から始まっている.
もう、後戻りができない.
監獄とは、国家的な暴力そのものである.
脱獄はそれを超える暴力だ.
脱獄と逃亡シーンの張りつめた緊張感.
男の顔は、もはや国語教師ではない.
警察の捜査のあり方や裁判制度に問題がある、などとは言わない.
国家が国民の生命と財産を守るとは、いったい何のことだ.
フランスの労働者は、ケイサツが大キライである.
ヤツらのやり方に納得できなければ、戦うしかない.
国など、さっさと棄てる.
かくて社会は冤罪を修復できず、真犯人は捕まらず、犯罪は新たな犯罪を呼ぶ.
忍従することなく、声をあげ、暴力すら手中にしたものだけが勝ち残る.
国家から見ればこれはテロに等しい.
しかしこの映画の観客は、この男の失意と怒りと絶望を感じる.
家族を守るための全てのことを成し遂げよ、と願う.
彼女のために(=原題POUR ELLE)突っ走ったこの男こそ、何にもまして「健全」だと思わせる.
エンディング、男の部屋の壁一面に脱獄計画のメモと資料が貼られている.
逃亡の後、警察がゴミ袋の中から復元したものだ.
刑事はその周到さに驚嘆するが、これは、男の絶望と、それを超えて生きるための戦いの痕跡なのだ.
『勇気はいつも辛くて うめきに似ていたから』