錆びたナイフ

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2025年5月25日
[映画]

「山の郵便配達」 1999 フォ・ジェンチイ


「山の郵便配達」



原題は「那山 那人 那狗」(あの山、あの人、あの犬)
1980年代の中国湖南省が舞台.
まだ40代の父(トン・ルージュン)は、体を痛めて、郵便支局長から、仕事を息子(リィウ・イェ)に譲るように告げられる.
息子の最初の仕事に、父もついてゆくことにする.
郵便物を背負って、223キロの道を3日かけて歩くという.
いつも一緒に歩く「次男坊」と呼ばれる犬がいい.
(こんな山奥にシェパード犬がいるか?という気はするが・・)
ふたりと一匹は、険しい山道を歩き、村々で郵便物を集配する.

仕事熱心で留守がちだった父に、息子は畏怖と疎遠な気持ちを抱いている.
村に近づくと次男坊が吠える.
郵便配達がやってきたと知れて、村人が集まってくる.
父は、単に郵便物を集配していただけではない、村人の生活になくてはならない人物だった.
トン族の村で、父は知り合いの娘に息子を紹介する.
仲良くなる若いふたり.
こんなふうにして、お前の母さんと出会った、という父.
車の通る道で、息子がバスに乗ろうと言うと、父は、配達は歩いてするものだという.
寡黙だった父が息子に、少しずつ経験を語る.
崖道で転落し、気を失った自分を、村人が総出で探してくれたこと.
父を背負って川を渡った時、ふたりの気持ちがすこしほぐれる.

この道中で何か事件が起こるかというと、何も起こらない.
それがよい.
やがて息子は、父の仕事を受け継ぐことに誇りを感じるようになる.
映像は丹念で、この作品は、世界のどこでも人々の共感を得るだろう.
中国国内でも多くの賞を得たという.
社会の底辺で、地道にひたむきに働くことを良いことだとする思いが、中国にあるということに、私はふと驚きを感じた.
この国では、全人民が先を争って、経済的に豊かになることだけを目指している、と思っていた.
あるいは、辺境の少数民族は、そうではない、のかもしれない.

ある村で、老婆がひとり、孫の手紙を待ちわびている.
その孫は、村で唯一大学に進学した男だが、村には帰って来ない.
まれにやってくる郵便物には、紙幣が一枚同封されている.
父は、目の不自由な老婆にその手紙を読んでやって、息子にもそうしろという.
どうやら、手紙には、何も書かれていないらしい.
この話、いい話なのだろうか.

やがて携帯電話が普及すれば、郵便物が激減するだけではない、都会の誘惑にかられて、若者はみな村を出てゆくだろう.
この映画は、それを暗示しているわけではないが、私は作品の「か細さ」、ある種の「出来の良さ」が気になる.
私の知る中国は、もっと強くてしたたかだ.
中国で、いや世界で、親子を越えて、昨日の仕事を明日も続けられるということは、もうありえないのではないか.

ではなぜ、このままではダメなのか.



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