2024年12月18日
[映画]

おそろしげな題名だが、とてもせつない映画だ.
冒頭、駅前のビルが燃えている.
マンションのベランダからそれを見ている母子.
母親(安藤サクラ)はシングルマザーで、息子・湊(みなと・黒川想矢)は小学5年生.
最近、湊の様子がおかしい.
ふさぎこんでいたり、靴の片方をなくしたり、ケガをしていたりする.
母親はいじめが原因だろうと、息子を問いつめる.
ブタの脳、バケモノと言われた・・ホリ先生に・・
母親が学校で抗議すると、担任の保利(永山瑛太)、教頭、校長(田中裕子)らは、すぐ謝罪はするものの、木で鼻を括ったような対応をする.
最近孫を事故で亡くしたという校長の言動は、白々とした建前ばかりで、母親でなくても「アンタ人間か?」と言いたくなる.
学校に問題ありかというと、そうではない.
話は保利先生の視点に変わる.
この男、少々奇妙なところはあるが、生徒思いで理解のある真面目な教師なのだ.
もちろん、生徒にブタの脳とかバケモノとか言うはずはない.
学校側は、本当は何があったかを調べる気はなく、とにかく謝ってやり過ごそうとする.
湊の同級生の依里(より・柊木陽太)は、クラスの男子からいじめにあっている.
湊は依里をかばうのだが、自分もいじめの対象になるのがいやで、依里に、話しかけるな、という.
依里は、父(中村獅童)とふたり暮らしで、その父から虐待を受けている.
この少年はその事を誰にも言わない.
父は息子を怪物だと言う.
映画は、湊の行動をもう一度たどり、この少年の思いが、少しずつわかってくる.
このクラスでも友だちはできないと思っていたと、依里がいう.
湊の気持ちは、すこしちがう.
学校の中では、それが屈折したかたちで現れる.
ふたりの仲をからかわれて、湊は依里につかみかかる.
保利先生はそれをけんかだと思って、ふたりを仲直りさせる.
大人は、なにもわかっていない.
依里はライターを持ち歩いている.
観客は、冒頭のビル火災に結びつくのではないかと思う.
お前の脳はブタの脳だと言ったのは、依里の父で、依里は、父からもクラスメートからも「おまえはこの世にいるな」と言われ続けているのだ.
泣かない、気にしない、いつか生まれかわるから、いつか宇宙は逆にまわるから.
湊が父の仏壇の前で「どうして生まれたの」とつぶやいたのは、依里のことなのだと思う.
湊は依里のことを心配し、依里は湊に心配されていることを知っている.
母親も息子のことを死ぬほど心配しているのだが、この気持ちは、それとちがう.
大人たちは、子どもたちに起こっていることの一部しか見ない知らない、そしてそれに振り回される.
保利先生は、弁明も許されないまま、子供に暴言を吐き怪我をさせたことで、マスコミにも取り上げられ、失職する.
まったく理不尽な話だが、湊の母親でさえ、口さがない噂話で保利先生を誹謗した.
保利先生も、校長に向かって、お孫さんの事故はあんたのせいではないかと言う.
母親は、湊が保利先生からいじめを受けていると思い、保利先生は、湊が依里をいじめていると思い、依里は、保利先生が湊をいじめているという.
湊の依里への微妙な思いが、この事件の核になっている.
保利先生は最後に、湊と依里は仲がよかったのだと気づく.
騒ぎの中で、校長がつぶやく「実際にどうだったかはどうでもいい」と.
私はこの映画を観ていて、みんな怪物なのだ、怪物でなければこの世に生きて行けない.
人間であることそのものがモンスターなのだ、と思ったが、
そうでもない.
邦画の最大の欠点は、「セリフが聴き取りずらいこと」
パソコンのPrime Videoで日本語字幕を出して、もういちど観る.
音楽室で、校長が湊にトロンボーンを吹くように言うシーン.
ここで湊は、
「あんまりわからないんだけど・・」
「好きな子がいる・・」
「ひとに言えないからウソついている・・」
という.
校長は、
「だれにも言えないことはね、ふぅーって」
ふたりでボワーンという音をだす.
ちょうどその時、
保利先生は、絶望して自殺するつもりなのか、校舎の屋根の上にいた.
すると、放課後の校舎内から、怪獣がほえているような奇妙な音がきこえる.
保利先生は、自殺を思い止まった.
湊と依里は、裏山のトンネルの先にある線路跡で、廃車になった電車をひみつ基地にしている.
車内を飾り立てて、お菓子を食べたりしている.
ふたりで向き合って、額にかざしたカードの動物が何か、当てるゲームをする.
「かいぶつだーれだ?」
自分には見えない自分の姿.
これが題名の由来だ.
依里が、
「おばあちゃんの家に転校するから、もう心配しなくていいよ」
という.
ふたりは、嵐の夜、失踪する.
この「ジョバンニ」と「カンパネルラ」には、この世に住む場所がない.
彼らを乗せた「銀河鉄道」は、出発した.
母親と保利先生が、ふたりを探して廃線跡まで来たとき、電車は山崩れに埋まっていた.
作者は、学校内のいじめや、大人の無理解や、ましてや性的マイノリティーを描きたかったのではなく、
依里を守りたかった湊の思いを、そのままこの社会に落とすと、思いもかけない波紋が広がった.
誰も知らなかった、少年の夏.
映画は、嵐のあと、青空の草原を駆けるふたりの姿で終わっている.
坂本龍一の音楽がいい.