2024年3月27日
[映画]

海ぞいの、塩辛を作る工場に、誰とも話をしたくないという雰囲気の山田たけし(松山ケンイチ)がやって来る.
工場長(緒形直人)は、しきりにがんばって働くように言う.
その工場長が紹介してくれたのが、川べりにある「ムコリッタ」という「ハイツ」・・というより社宅みたいな「長屋」

隣に住んでいる島田さん(ムロツヨシ)が、風呂を貸してくれとやって来る.
たけし最初は追い返すが、島田さんは畑で作った胡瓜やトマトをもってくる.
自称ミニマリストの島田さんは、結局たけしの所にあがり込んで、毎日ご飯を食べるようになる.
ふっくら炊いたご飯と、工場でもらった塩辛.
それがなんともおいしそうに見える.
いただきます!
“フードスタイリスト”は、この監督作品常連の飯島奈美.
この長屋には、シングルマザーの大家・南さん(満島ひかり)とか、子連れで墓石のセールスをしている溝口さん(吉岡秀隆 )とか、2年前に死んだはずなのに時々現れる岡本さん(幽霊)とかがいる.
南さんは、高橋留美子の漫画『めぞん一刻』の管理人・音無響子、のような人.
4歳の時に離婚して顔も覚えていない父が、アパートで孤独死しましたと役所から連絡があり、たけしはその遺骨を引き取りに行く.
役所の係員(柄本佑)が、棚に並んだ引取り手のない遺骨をみせる.
これが、この映画の底を流れているテーマ、居なかったことにされた人々.
たけしは、父にも、自分を捨てた母にも、愛着を持っていない.
父の遺品の携帯電話で、最後に何度もかけた相手に電話すると、そこは「命の電話」だった.
死にたいと思っていたのか・・
たけしの秘密は、詐欺罪で服役していたこと.
妙に馴れ馴れしい工場長の態度は、たけしを「前科者」と知った上で、親身になろうとしているのだ.
家賃を半年も滞納している溝口さんのところで、すきやきの匂いがする.
たけしと島田さんが箸をもってあがり込む.
南さんまで来て、どうしたのかと聞くと、200万円のお墓が売れたのだという.
溝口さんが泣きそうな声で言う.
それが、ペットの犬のですよ・・
南が、ひとり、骨壷から夫の遺骨を取り出してかじるシーンは、なんだかなぁ.
実は、工場長とか溝口とかも、私にはいまひとつしっくりこない.
フワフワと生きているようにみえる島田さんにも、他人に言えない苦しい過去があるらしい.
もたいまさことか小林聡美とか、この監督のいつものメンバーが出ていないせいだろうか.
荻上監督は、今までになく、登場人物の心の闇を描こうとして、あまり上手くいっていない、という気がする.
最後のシーン.
夕暮れの土手を、ムコリッタの住人たちが行進している.
島田の友達の坊さんを先頭に、南さんが鐘をたたいて、子どもが笛を吹いて、島田さんが太鼓を叩いて、たけしは粉にした父の遺骨を空に撒いている.
奇妙で静かな葬列.
ああ、これがいい、これでいい.
人が生きるとは、つまり「人生」とは、
毎日誰かと一緒にご飯を食べること.
葬式をすること.