2021年8月15日
[映画]

デンマーク製クライム・サスペンス
驚くべき映画である.
主人公、アスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、警察の緊急ダイアルを担当している.
この男、時にケビン・コスナーを思わせるような、暗い目をしている.
アスガーは元警官、何かわけありで、この職場に配属されたらしい.
舞台は、10卓ほどの机の上にパソコンと電話が並んでいる、殺風景な部屋.
ここは24時間勤務で、ある日の夕刻、アスガーが勤務を交代するまでの、数時間の出来事である.
女性から、切迫して要領を得ない電話がかかってくる.
デンマークの警察は、かかってきた電話の、持ち主とその発信位置がわかる.
アスガーは、電話の主に、イーベンと呼びかける.
彼女は誘拐されて、車の中にいるらしい.
アスガーは、犯人に気づかれぬように、彼女を励ましながら、状況を聞き出す.
このあたりの推理力と機転の効いたやりとりは、実にスリリングだ.
イーベンの家に電話すると、子供が出て、パパがママを連れて行ったという.
アスガーは、子供から、夫の電話番号を聞き出す.
誘拐犯は、イーベンの元夫、ミカエル.
アスガーは、子供を保護するために、警官を派遣し、
かつて相棒だった友人の警官に連絡して、ミカエルの家を捜索する.
電話オペレーターは、事件を警察の通信指令室に連絡すれば、それで仕事は完了である.
主人公の行為は、明らかに職域を越えている.
イーベンの家で死体が発見されると、アスガーとイーベンの会話は緊迫感をおびる.
驚くべきは、カメラが、一度も部屋を出ないことである.
事件は思ってもいない展開をし、どんでん返しがあるのだが、その光景は、この映画を観る観客の想像力が生み出したものだ.
殺人現場も、拉致された車も、被害者も加害者も、映像はない、声だけ.
主人公の電話の応対が、映像の全てである.
こんな映画は、みたことがない.
今時流行の、CG/SFX満載映画の対極、とも言える.
にもかかわらず、この緊張感と観客をひきつける力は、映画として一級品だ.
ラジオドラマ、あるいは小説でもよかった?
いや、そうではない.
映画の構成は、どこかヒッチコックを思わせる.
この主人公の表情を通して、まさにこの男が感じる差し迫った危機感とじれったさを、我々観客も共有する.
こんな作品を映画化した監督モーラーには、並々ならぬ力量があった、ということだ.
「THE GUILTY」という原題は、アスガーの職務上の事件をからめているのだが、私は、なくもがなの話だと思う.
限られた条件の中で、難事件を推理してゆくという展開は、サスペンスの王道である.
そもそも、映画の醍醐味は、映像よりも、物語にあるのだ、と痛切に感じさせてくれる.
映画好きは、この作品を絶賛するだろう.