錆びたナイフ

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2020年7月14日
[映画]

「プラネット・テラー」 2007 ロバート・ロドリゲス


「プラネット・テラー」



映写中に突然、フィルムのコマがカタカタと止まって、静止した画像が、やがてもあぁっと燃えて溶ける.
昔、銀座の並木座で野村芳太郎の「張込み」を観ていた時に、溶けた.
忘れもしない田村高広と高峰秀子の野外シーンで、そのあと話が飛んだ.
ロドリゲスのこの映画は、ヒーローとヒロインのラブシーンでそれが起こる.
もちろん、フェイクである.
いまどきの映画館はほどんどフィルムを使わないから、画面が溶けるシーンの「意味」がわかるのは、おじさんだけだろう.

この映画は、画面が揺れ、ブレ、雨のようなタテ傷が走り、ボソッとフィルムのノイズが入る.
クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスが、昔の3本立て映画館(グラインドハウス)を懐かしんで、当時の雰囲気むんむんの映画を2本作った.
タランティーノの作品「デス・プルーフ」も悪くないが、ロドリゲスの「プラネット・テラー」は、そのえげつなさがぶっとんでいる.
冒頭に「MACHETE」という映画の予告編がでてくる.
メキシコ人のおっさんが、自分を罠にはめた悪い白人に復讐するという話のようで、これがめっぽう面白そう.
タランティーノもロドリゲスも、単に懐かしんでいるのではない、心底あの時代の映画が好きなのだ.

アメリカの田舎町の近郊に米軍基地があり、そこから化学兵器のウィルスが漏れ出して、住民がゾンビ化する、という話.
いつも体温計を口にくわえている医師(ジョシュ・ブローリン)のもとに、最初の患者がやってくる.
本人は平気で、誰かに噛まれたという.
腕の傷はひどい状態で、口を開けると舌に腫瘍ができていて・・
うひゃぁ〜キモチワル・・とても口にできない映像.
キモいエロいグロい毒々しい、観客はついに笑ってしまう.
患者はどんどん増え、さらに死んだはずの患者がゾンビ化して、病院内は阿鼻叫喚.
この病院の女医ダコタ(マーリー・シェルトン )は体温計医師の妻で、夫は妻の浮気を疑っている.
ゾンビも怖いが、嫉妬に狂った夫も怖ろしい.

かくして、この町でゾンビと戦うのは、
ゴーゴーダンサーをしていたチェリー(ローズ・マッゴーワン)
廃品回収業の若者レイ(フィレディ・ロドリゲス)
ゴーゴーダンス店のマネージャー
女医ダコタと、その父
レイを嫌う保安官(マイケル・ビーン)とその部下
ベビーシッターのメキシカンギャル2名(監督の姪だそうです)
彼らが集結したのは「BAR B Q」バーベキューというレストラン.
保安官の兄、J.T(ジェフ・フェイヒー)が経営している.
アメリカのどの田舎にもありそうな店だが、これがかなりキタナイ.
そこへゾンビたちが現れ、どたばたグシャグシャ炎と血の雨.
ステーキソースの味付けにしか関心がないJ.Tは、吹き飛んだゾンビの体もソースもごちゃまぜなのだ.
おぞまし〜い、というより、どうやっても生き抜くという覚悟がなければ、ここアメリカでは生きていけない.
少なくともこいつらは、その覚悟をしている.

レイは、実は射撃の名手なのだが、小柄で、低い声でぼそぼそ喋る.
こういうヒーローは、アメリカ映画では珍しい.
ヒロイン、チェリーはゾンビに右脚を喰われて、コメディアンになりたかった夢が壊れたと嘆く.
するとレイもJ.Tも、片足を売り物にしろ、という.
メソメソしていたチェリー、切断した脚にマシンガンを装着して、にわかによみがえる.
地面で身体を回転しながら銃弾を撃ちまくるこの女、宣伝文句どおり「近未来エロティック・バイオレンス・アクション・ホラー」のクイーンだ.
こういうツン抜けぶりが、アメリカ映画の真骨頂.
この映画の主人公はチェリーなのだが、女医のダコタがいい.
ダコタは(どういうわけか)太ももに注射器のホルスターをつけていて、麻酔薬を銃のように扱う.
最初は勝気だったこの女、夫とゾンビに追い詰められる.
浮気相手だったダコタの「女」は、ゾンビに脳味噌を喰われて死んだ.
子供は逃げる途中、銃の事故で死んだ.
涙と恐怖と怒りで、アイシャドーが流れたダコタの顔は、パンダみたいだ.
かあいそうを通り越してもう滑稽なのだが、こういうのが絶対「いい女」なのだ.

かれらは軍の基地に乗り込んで、半分ゾンビ化した兵士と戦いになる.
軍のボスは、ブルース・ウィリス.
軍人たちはウィルスに感染しているのだが、抗体ガスを吸引することで、かろうじてゾンビになるのを防いでいる.
ガスマスクを外すと、顔にボツボツ発疹が出てやがて全身が溶けだすのである.
ブルース・ウィリスも最後は溶ける.
凶悪軍人役でタランティーノが嬉々として出演.
チェリーに襲いかかろうとズボンを下ろすと、下半身が溶けかかっている.
うひゃぁ〜とても口にできない・・思わず笑う.

ヒトはどうしてゾンビ映画が好きなのだろう.
理屈はいくつも思いつくのだが、
ようするに、生きるって、キモチワルイのだ.


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