錆びたナイフ

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2019年11月13日
[映画]

「カメラを止めるな!」 2017 上田慎一郎


「カメラを止めるな!」


通称「かめとめ」
去年爆発的にヒットした映画.
浄水場跡のような廃墟でゾンビ映画を撮影している現場に、本物のゾンビが現れて大騒ぎになるという話.
冒頭から37分間ノーカットの長回しが、あれよあれよと続く.
これを作るのはさすがに大変だったろう.
今時はCGで何でもできるので、ノーカットの意味が変わってしまったのだが、これは見るからに低予算映画、まさに熱意と根性と力業の一発勝負で成し遂げた作品である.
これが「One Cut of the Dead」という劇中劇(映画)で、後半は1ヶ月前に話が戻って、その制作の顛末をメイキング風にたどってみせる.
前半も後半もドキュメンタリーではない、あくまで役者が演じるドラマである.

ゾンビドラマを、カメラ1台で、それもテレビの生放送でやる、というのが、監督の日暮(濱津隆之)に与えられた仕事.
ドラマのヒロインの(秋山ゆずき)はすれっからしのタレント女優、ゾンビ役の(長屋和彰)は理屈ばかりのイケメン、監督の日暮は気が弱くて妥協ばかりしている.
役者もスタッフもなんだかしまりがない.
我々観客はできあがりの映像をすでに見ているわけだから、この後半の展開はかったるい.
しかし、生放送当日に監督役の役者が来ない、というあたりからテンションがあがりはじめる.
日暮自身が劇中劇の監督役になり、その妻(しゅはまはるみ)が役者にかりだされ、娘の(真魚(まお))が進行ディレクターをかってでる.
劇中劇がゾンビの登場で俄然、混乱とパッションを生み出したように、生番組に穴をあけられないという緊張感が、後半の盛り上がりの要だ.
劇中劇にあった役者の妙な動きや、間があいたシーンには理由があって、その舞台裏があかされる.
文字で書いた変更指示を役者にチラ見せ、酔っ払った役者をスタッフが支えてゾンビに見せ、どうやってトラブルを乗り越えるか、スタッフは懸命にドラマを続行させようとする.
このドタバタが面白い.
ゾンビが登場すると、つまり役者がゾンビのメーキャップをし、スタッフがもがれた腕や首を転がすと、現場は悲鳴と血飛沫の嵐になる.
監督もヒロインも人格が変わったように全力疾走する、というところが見せ場.
「タランティーノが作ったらどうなるか?」と作者の上田慎一郎が言うように、映画が好きだ、というエネルギーにあふれている.

しかし、よく考えると不思議な映画である.
とにかく最初にノーカット版を作って、それに合わせて後半のメイキング話を創作したのだろう.
よくみると、エンドクレジットの背景に、ノーカット版のメイキング映像が出てくる.
後半の映像で、カメラマンがへたりこんでカメラを落とし、助手がカメラを拾い上げて撮影続行するというシーンが出てくるが、
実はこのシーン、ノーカット版を「実際に」撮影したカメラマンが、一瞬カメラを地面に置いて一息ついて水を飲んだのである.
つまり完成作品では、このひとつのシーンが三重の視点で映像化されている.
行き当たりばったりで作ったのではない、かなり考えて作られた映画なのだ.

興奮した日暮監督が、こちらに向かって「カメラを止めるな!」というシーン.
ん?いったい誰に言ったのか.
自分が作っている映画にゾンビが乱入して大騒ぎになっているのを、TVで生中継しているカメラに言っているのである.
ゾンビ話そのものの展開は、なんのオチもなくてつまらないのだが、リアリティ番組のように、ぶっつけ本番の必死さが観客をひきつける.
描かれる内容と描く主体とを、ここまではちゃめちゃしても映画が成り立つ、というのは、映画のすごさというより、作者の非凡さだと思う.


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