錆びたナイフ

back index next

2017年9月3日
[映画]

「じじばばの映画2本」

「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」 2011 ジョン・マッデン

「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」

じいさんばあさんばかり登場.
イギリス本国で、いろいろあって、それぞれ屈託を抱えた七人の熟年男女がインドにやって来る.
かつて英領であった国々は、イギリス人にとって「余生をおくる場所」でもある.
やってきてみれば、将来は“高級ホテルになる予定”という廃墟同然のボロ・ホテルにびっくり.
やる気だけは人一倍のインド人支配人ソニー(デヴ・パテル)が駆け回っている.
七人がそれぞれの思いを抱えて顔見知りになった頃、ホテルの廃業話が持ちあがる.
つまり、この七人の過去と未来、ホテルの復活、それにソニーとその恋人の行方がからまる.

かつてこの地で見捨てた恋人、その「男」を探すゲイのグレアム(トム・ウィルキンソン)は、男と再会したあと心臓病で急死する.
グレアムはインド流の火葬で葬られる.
「暑い!人が多い!騒がしい!不潔!」少しもインドを好きになれないジーン(ペネロープ・ウィルトン)は、夫を置いて本国に帰ってしまう.
他の五人はこの地で生きる道を見つけ出す.
昔ジェームス・ボンドの上司だった・・イヴリン(ジュディ・デンチ)がいい.
インドで生と死のあわいをさまようでもなく.
いくつになっても相方(異性でも同性でも)を求める西欧のジジババ.
「自分の思うように生きなさい」とソニーに告げるイヴリンは、結局西欧流の価値観を若者に告げただけだ.

インドというと私は藤原新也のインド紀行「メメント・モリ」を思いだす.
(死を思え)
そんなことわかってるわよ、だから今の「生」を精一杯生きるのよ.
ジジババは、ひとの言うことなど聞かないのである.


「カルテット!人生のオペラハウス」 2012 ダスティン・ホフマン

「カルテット!人生のオペラハウス」

イギリスの田園地方にある、引退した音楽家たちが身を寄せる老人ホームが舞台.
どこやらテレビで放送している昼の連続ドラマ「やすらぎの郷」に似ている.
(ちなみにこのテレビドラマ、倉本聰に期待して最初のうちは観ていたのだが、ドラマの作り方があまりにヘタクソなので途中でやめた.)
年老いた音楽家の音楽は、さらっとしていていい.
私たちは、老人のストーリーと同時に、年老いた役者自身を観ている.
彼らは傲慢で偏屈で、この手合いが寄り集まっているのだから、老人ホームは騒がしくてしょうがない.
往年のオペラ歌手は、レジー(トム・コートネイ)、シシー(ポーリーン・コリンズ)、ウィルフ(ビリー・コノリー).
シシーは痴呆症で時に言動がおかしい.
ウィルフは女性を誘惑するのを天命と思っている.
彼らの真剣だか冗談だかわからない奮闘ぶりが可笑しい.

この老人ホームは経営難で、資金集めのために、入居老人たちがコンサートを開こうとしている.
そこへ昔の歌手仲間だったプリマドンナのジーン(マギー・スミス)が入居してきた.
かつてジーンと束の間夫婦だったというレジーは、よほど傷ついたのだろう頑なにジーンを拒否する.
ジーンは往年の栄光にフタをして人前で歌うことを拒否している.
つまり、彼らが仲直りをして最後にコンサートが成功する、という話の先が見えてしまうが、ダスティン・ホフマンの演出は手堅い.
「ファックユー」などあられもない言葉で仲間をののしったジーンが、結局仲直りをするというのはエライ.
老人は、学ばない、理解しない、変わらない、成長しない、乗り越えない.
だから、若者たちの映画より面白い.

昔の仕事仲間ばかりの老人ホームなど剣呑だと、私は思う.

home