錆びたナイフ

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2017年7月3日
[映画]

「ミニー&モスコウィッツ」 1971 ジョン・カサヴェテス

「ミニー&モスコウィッツ」


カイゼル髭を蓄え髪を後ろに束ねたこの男・シーモア・モスコウィッツ(シーモア・カッセル)は、ジュネの「デリカテッセン」とかに出てきそうな風貌で、駐車場の配車係をしている.
この映画に出てくる男たちは、大声で文句ばかり言っている.
レストランでシーモアにからむ男(ティモシー・ケリー)とか、ヒロインとデートする男(ヴァル・エイヴァリー)とか、実にウサン臭い男たちばかり登場、映画館で「カサブランカ」を観るシーモアなど比較的マシなほうだ.
この男たち、どこか壊れてるんじゃないか?と思う.
悪人かというとそうではないが、まるきり善人でもない、ハイテンションでガサツで自分の欲望にしか関心がないにも関わらず「愛」を連発する.
彼らは彼らなりに世の中で暮らす場所と友人と家族と女を求めている、から話がこんがらかる.

ミニー・ムーア(ジーナ・ローランズ)は、泣いたのか苦虫を噛んだのか、時に少女のような顔をする.
美術館の職員でプール付きで壁一面本棚という家に住んでいる、というのはちょっと似合わないが、このヒロインには不思議な魅力がある.
出会ったふたりは最初からぎくしゃくしている.
喧嘩というか言い争いというか、まるでソリが合わないこの二人のやりとりが、妙に可笑しい.
結局、女も壊れてるんじゃないのか?
一体どうなるのか・・私は「グロリア」のように暴力爆発かと思ったが、まさかハッピーエンドとは・・
出会って四日目に突如として結婚する気になったふたりが、双方の母親とレストランで初対面するというシーン.
シーモアの母親(キャサリン・カサヴェテス)が息子をぼろんちょにけなすところがすごい.
呆れ顔のミニーとその母親(レディ・ローランズ).
でも、結婚する、のである.
役者の名前でわかるように、監督の家族総出で作った映画なのである.

その場で放言しているような台詞、ノーテンキな音楽、ラフなカメラワーク、まるで放りだすようにパッと話が変わる.
アメリカの、場末のレストランの料理のように、話は大雑把でチグハグで落ち着きがない.
で、そのまんま子供ができて、集まった家族たちが庭で歌って踊っているシーンで終わる.
う〜む、オチがない、いや、これでいいのだ!
壊れていないものなど、ないのだ.


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