錆びたナイフ

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2017年6月23日
[映画]

「ジャージの二人」 2008 中村義洋

「ジャージの二人」


「ワケあり父子(おやこ)の、何もしない夏休み。」
ジャージと聞いただけで、デレっとした雰囲気が伝わってくる.
真夏の数日、父(鮎川誠)と息子(堺雅人)が嬬恋村の別荘にやって来て二人で暮らす.
確かに、何もしないし何も起こらないのだが「なんかこう・・・」面白い.

森の中の、別荘というよりコオロギがはいまわる古い山小屋で、二人は古着の小学校のジャージを取り出してそれを着ている.
二人は今、仕事をしていない.
彼らは子供の頃からここへ来ていたらしく、二人を知っている地元の人もいる.
ここですることは、散歩と薪割りとスーパーへの買い物、トマトをたくさんもらって毎日食べる.
父はテレビゲームの麻雀をしている.
息子は原稿用紙に向かうが何も書いていない.
ダラダラ生きている、というのではない、コツコツ単調な生活を続けているだけだ.
父は、再婚した相手とうまくいっていないらしい.
息子の妻(水野美紀)は浮気をしていて、相手の子供が欲しいと言うくらいだから、こちらはかなり深刻な状況だ.
父も子も連れてきた犬も問題を抱えているが、それぞれ同情するとか相談するとかではない.
この二人、父は息子をキミと呼び、息子が父の名を呼ぶシーンは、ない.
話が通じているんだかいないんだか、テンポのずれた会話がじわっと可笑しい.
「東京は猛暑です」というテレビの天気予報を見るたびに「よっしゃぁ」という顔をする父子.
それどこじゃないだろう、という気もする.

携帯電話で映画は変わった.
話の展開に割り込むようにベルが鳴り、登場人物たちが何処にいようが連絡がつく(はず)なので、物語が作りにくくなったのではないだろうか.
この別荘は、携帯の電波が届かない.
届くのは高原のキャベツ畑の丘の上で、そこまで行って携帯を空にかざすと、溜まっていたメールが届く.
この設定がおもしろい.
別荘には固定電話もあるのだが、遊びに来た父の友人(ダンカン)も、固定電話は使わない.
ワケありの人々は、ケイタイでこそこそ話をするのである.

一年後の夏、息子の妻も一緒に別荘にやって来て「ジャージの三人」になる.
妻とよりが戻ったのかというと、いや、まだもめている.
妻が帰ると、腹違いの妹花ちゃん(田中あさみ)がやって来る.
花ちゃんはビデオばかり見て、それから父と帰る.
息子は一人残って、嵐の晩に小説を書いている.
電波が三本立つ例の丘で、息子は妻のメールを読んで、それから父にメールを出す.
ジャージに縫い付けてある学校名「和小」の読み方がわかった.
「かのうしょう、です」
ささやかな、解放感.


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