錆びたナイフ

back index next

2016年12月29日
[映画]

「ネブラスカ」 2013 アレクサンダー・ペイン


「ネブラスカ」


モノクロ、ホアンとした音楽、アメリカの田舎町をたどるロードムービーは、ジャム・ジャームッシュの映画を思わせる.

ブルース・ダーンは数々の脇役で印象に残る役者だが、この頑固でしょうもないじいさん・ウディを好演している.
若い頃はもてたらしい、口うるさい妻ケイト(ジューン・スキッブ)の、明け透けな物言いが面白い.

宝くじで貴方に100万ドル当りましたという手紙をもらったウディは、賞金を受け取りにネブラスカ州のリンカーンまで行くと言う.
妻も二人の息子もそれを止めようとするが、ウディは一人で、歩いてでも行こうとする.
根負けした次男のデイビッド(ウィル・フォーテ)が車で連れていくことになる.
アメリカ中西部の乾いたモノクロ映像がいい.
旅の途中でウディの故郷の町に立ち寄る.
幼馴染も親戚もじいさんばかりで、ウディの賞金が町中の評判になる.
老人ばかり出てくる映画である.
彼らはヒトの話を聞いているのかいないのか、会話に妙なズレがあって、ビミョーな雰囲気が可笑しい.

アメリカの老人はだれも、やりたい事をやり、言いたいことを言っているように見える.
時に助けてくれる人はいるが、元々だれにも頼っていない.
ビールは酒じゃないというウディは、酒飲みで頑固で動作も応答もとんちんかんだが、認知症ではない.
多分認知症であっても、生き方は変わらないだろう.
つまらないと思うことの基準は自分が決めていて、はっきりそう言う.

故郷の町で、デイビッドはウディが若かった頃の話を耳にする.
それは彼が思っていた父親像と少し違う.
それが副題の「ふたつの心をつなぐ旅」ということらしいが、ウディはそんなことに興味はないだろう.
どんなつもりで子供を作ったかと問うデイビッドに、やったらできた、と答えるウディ.
どうしてそんなに酒を飲むのかと聞けば、お前も母さんと結婚したらそうなる、と答える.
ユーモアなのか本気なのか、無口で堅物だったこの男も、ぶっきらぼうなやり方で息子たちを気にかけていた.
彼は、宝くじの手紙がウソであることを知っていたのか、知らなかったのか.

それは、どちらでもよかった.
アメリカ人の、肉親でも他人でも、この距離感の取り方は見事だと思う.
齢(よわい)を重ねることでヒトは、鷹揚に、ものごとにこだわらなくなるのか、益々嫌なものはイヤと言うようになるのか.
時に邦画に登場する、誰かのために生きる、なんぞという人間のウサンくささよ.


home