錆びたナイフ

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2016年12月12日
[TV]

「京都人の密かな愉しみ」 2015 源孝志


「京都人の密かな愉しみ」


制作NHK
最初にテレビで観たのは2015年の1月で、その後8月に「夏編」、今年4月「冬編」、今年11月「月夜の告白編」と続いている.
どれも面白い.
舞台は京都、老舗和菓子屋を営む母(銀粉蝶)と娘三八子(常盤貴子)、その隣家に下宿する英国人の大学教授ヒースロー(団時朗)が話のキーになっている.
毎回、登場人物が別の短い話が入り混じり、ディープ版京都案内といったドキュメンタリーや、おまけに料理番組まで渾然一体、このシリーズはテレビでしかなし得ない絶妙な作品になった.
驚くべきは、どの話も実にきっちり作っていることで、映像も演出も文句なく一級品である.
映像的な質の高さで言えば、NHKのドラマ「坂の上の雲」(2009〜2011)を思わせる.

NHKのアナウンサー(松尾剛)と京都住まいの料理家(大原千鶴)が、掛け合い漫才よろしくお喋りをしながら、季節の料理を作り食べてみせる.
料理を丁寧に作ることと、物語を丁寧な映像で綴ることが一体になっている.
古くからこの街に住む人々は、四季に合わせた生活を連綿と続けていて、その「しきたり」が生活の大半を占めている、ように見える.
それを、わずらわしいと思わないこと.
それが京都人特有のプライドにつながっているのだが、作者はそれを淡々としたユーモアでくるんでいる.
いかにもいわくありげな古刹の僧侶(伊武雅刀)をはじめ、つぶぞろいの役者たちが登場する.
夏編は「水」がテーマだったが、茶道の家元(榎本明)と、その家を飛び出した長男(眞島秀和)が営むコーヒー屋の話は、舌を巻くほど見事だった.
ほれぼれするような登場人物の所作の見事さと、どうやってこんな映像を撮ったのかという驚きである.
京都人の一癖ある生き様と、人間が丹念に生きることの機微と清々しさが、画面にあふれている.
古くて頑なで楚々と生きるひとたちが、俄然輝いて見えるのである.

美しい三八子に心を寄せるヒースローと、彼を追って日本までやってきた京都人ぎらいのフィアンセ(シャーロット・ケイト・フォックス)の対決が嵐を呼ぶ.
三八子の隠れた恋人かと思わせた雲水は実は異母弟で、最近作では、その三八子にどうやら外国人の思い人がいることを匂わせる.
話はまだまだつづくのだろう.
三八子がめくる日めくりカレンダーはまるで旧暦二十四節気そのまま、毎年同じで、それは決して同じではない.

丹念に作品を作るとは、丹念に人間を見ている、ということである.
このことは昨今、いくらほめてもほめすぎではない.


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