錆びたナイフ

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2016年10月31日
[映画]

「パーマネント野ばら」 2010 吉田大八


「パーマネント野ばら」


今どき「パーマネント」なんて言わないだろう「野ばら」は、小さな漁港の美容室.
近所のおばちゃんたちはみんな流行のパンチパーマで、店にやってきては毎日お喋りしている.
話といえばオトコの話・・・「あのチンコはええチンコやった」・・・
この映画、女たちが主人公である.

「野ばら」は、いかにもワケありサバサバ人生のまさ子(夏木マリ)が店主で、出戻りで子連れの娘なおこ(菅野美穂)が店を手伝っている.
なおこの幼馴染はみっちゃん(小池栄子)とともちゃん(池脇千鶴).
みっちゃんは怪しげなフィリピンスナックのママで、浮気性の夫といつも喧嘩している.
ともちゃんの夫はギャンブルにはまって家に帰って来ない.
まさ子の今の夫カズオ(宇崎竜童)は、地元の他の女の家で暮らしている.
「ええオトコはおらんかのう」
だれもかれも男運が悪い、という話になっている.

なおこにはカシマ(江口洋介)という恋人がいる.
女子高生の頃から好きだった地元の高校の先生で、誰にも言わず時々逢いびきしている.
夫の浮気に逆上したみっちゃんは、車で夫を跳ね飛ばした.
ビンボーなともちゃんのお父さんは、町の電柱をチェーンソーで切り倒して、その銅線を売って家族に肉を買ってきてくれた.
だから町は今も時々停電する.
行方不明だったともちゃんのギャンブル夫は、山の中で干からびて死んでいた.
マンガみたいに、おかしいといえばとてもおかしい.

明け透けのない人々の中で、のんびり暮らしているように見えるなおこの心の中に、女で生きることの苦しさが、静かに渦を巻いている.
時々なおこの娘に会いに来る元夫は、遠景で顔が見えない.
なおこが想うカシマは、実はとうに亡くなっていた.
なおこの肩にある傷痕は、次々と男を変えた母との葛藤の跡なのだが、それは愛憎ではなく、何かの飢えなのだ.
夜の電話ボックスで、寂しいと泣いたなおこの声は、誰に届いたのか.

恋することを果てしなく求める女たちをあとに、男たちは遁走する.
いったいどこへ?
最後は町の裏山に埋められてしまう.


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