錆びたナイフ

back index next

2016年9月30日
[映画]

「真夏の夜のジャズ」 1959 バート・スターン

「真夏の夜のジャズ」-1

「真夏の夜のジャズ」-2


1958年「ニューポート・ジャズフェスティバル」の記録映画.
50年代とは思えないオシャレで斬新な映像.

カメラは、舞台の演奏だけでなく、真夏のニューポートの雰囲気をスケッチのようにとらえている.
海をすべるヨット、ビールを飲んで踊る人々、夕暮れの凪.
セロニアス・モンクのピアノは、昔から妙な音を出していた.
大きな帽子のアニタ・オデイ姐御がいい.
チャク・ベリーのロックンロールと、ガハハハと笑うサッチモ、そしてゴスペルを歌うマヘリア・ジャクソン.
ジェリー・マリガン、ソニー・スティットは登場するが、マイルスやロリンズが出てこない.

デキシーランドジャズのあとで、ふいとバッハが聴こえてくる.
暗い部屋の中で、半裸の男が、一人でチェロを弾いている.
外ではこどもが遊んでいる.
無伴奏チェロ組曲1番・プレリュード.
この曲は休符がひとつもないので、弾き始めたら止まらないのだが、この男は途中で演奏をやめると、煙草に火をつけて、12小節飛ばして、また演奏を続けた.
私が初めてこの映画を観たのは1976年で、この曲の印象は強烈だった.
ジョン・コルトレーンのテナーサックスから、激しく湧き出す音を「シーツオブサウンド」と呼んだが、このバッハの音列もまた、シーツオブサウンドである.
繰り返す眩暈(めまい)のように、人の心をゆさぶる.
バッハは、人間が考えつく技巧のはるか先で、それを天上から得たと言うだろう.

しかし、ジャズバンドにチェロ?
そう、この男ネイサン・ガーシュマンは、チコ・ハミルトン・クインテットのチェリストだった.
エアコンなどない時代、エリック・ドルフィーを交えて全員で練習する時もみんな半裸というのが可笑しい.
登場する古参のミュージシャンたちとリラックスした聴衆を見ていると、バート・スターンのセンスが、半世紀前のアメリカの輝きそのものだったと思わせる.
ロックンロールもゴスペルもバッハもまた、ジャズだったのである.


home