錆びたナイフ

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2016年3月31日
[映画]

「ゼロ・グラビティ」 2013 アルフォンソ・キュアロン

「ゼロ・グラビティ」


画面いっぱいの地球に、はるか彼方から光る点、スペースシャトルが近づいてくる.
船外活動をしている宇宙飛行士が見える.
シャトルがゆっくり画面中央まで近づくと「カメラ」(画面)はその周囲をめぐり、飛行士たちの顔がわかる.
ライアン(サンドラ・ブロック)とマット(ジョージ・クルーニー)が軽口を叩きながら作業をしている.
と、ロシアが自国の衛星を破壊し、その破片が宇宙に撒き散らされたと、ヒューストンが告げる.
連鎖的にアメリカの衛星が破壊され、地上との通信が途切れ、破片が次々とスペースシャトルに衝突する.
シャトルは破壊され、ライアンが吹き飛ばされる.
なんと、冒頭からここまでノーカットである.
思わず目をみはる.
映画を観る観客は、ストーリーを追うと同時に、どうやって作ったかという経緯も同時に見ている.
だからノーカットシーンが長いと、息がつまるような緊張感を生む.
この監督は「トゥモロー・ワールド」でも衝撃的なノーカットをやったが、
この映画も、どうやって撮ったのかわからない.

カメラが主人公にクローズアップした時、ヘルメットにカメラや照明が映る、なんてことはない.
そればかりか、カメラ(視点)はヘルメットの中に入ってしまう.
ライアンの瞳には地球が映っている.
画面はヘルメットの内側からの映像、つまり主人公が見ている世界に切り替わる.
これをノーカットでやる.
こんな映像は見たことがない.
どうやって撮っているかわからない.

ほぼ全編、無重力のシーンである.
ライアンの涙まで宙に浮いている.
「2001年宇宙の旅」で、セットとカメラ全体を回転させた、などとまったく違う.
地上の映画なら、カメラを置く場所は限られるが、宇宙空間なら上も下もない、何処から撮ってもおかしくない.
映画フィルムはたかだか1秒間24コマの絵なのだから、コンピュータで描けばなんでもできるとばかり、目も眩むようなカメラワークをやってのけた.
この映画、話はサンドラ・ブロックが必死で危機を乗り越えるパニックものなのだが、映像は、ほとんど「夢」の不条理に似ている.


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