錆びたナイフ

back index next

2016年3月14日
[本]

「二時間目国語」 監修 小川義男

「二時間目国語」


「そのときわたしは、ことばに言いあらわせないほどくったくした気持ちで沼池のほとりを散歩していたのです。」
井伏鱒二「屋根の上のサワン」
私は、中学校の国語の教科書でこの「屈託」という言葉を覚えた.
傷ついた一羽の雁を助け、サワンと名付けて育てる主人公が、なぜ屈託していたのか、理由はわからない.
独居しているようにみえるこの老人は、家族とケンカしたりして「くったく」しているのだろうか、と中学生だった私は思った.
今、老人である私はイヤになるほど、その説明できない「くったく」がわかる.

図書館で「屋根の上のサワン」を検索したら、この「二時間目国語」 という本がでてきた.
誰でも知っている「名作」が、21編掲載されている.
土家由岐雄「かわいそうなぞう」、小川未明「野ばら」、新見南吉「ごん狐」のように泣かせる作品から、星新一のショートショート「おみやげ」、レオ=レオニ「スイミー」まで、昔(戦後)の中学・高校の教科書にあった(らしい)作品である.
森鴎外「高瀬舟」、中島敦「山月記」、宮沢賢治「注文の多い料理店」「永訣の朝」、夏目漱石「こころ」、高村光太郎「レモン哀歌」、横光利一「蝿」が、いい.
どれも教科書で読んだわけではないが、不思議なことに、昔と同じ印象なのは宮沢賢治だけだった.
「かわいそうなぞう」はほんとにかわいそうなのは誰かと思ってしまうし、「山月記」の虎はカッコイイし、横光利一はまるで映画のシーンをみるようだ.

どの作品も、なくもがなの短い解説と「なつかしのこくご問題」というのがオマケが付いている.
「山月記 李徴が発狂するまでの過程を表す単語をア〜ウから選び、正しく並べ替えてください ア・絶望、イ・狂悖、ウ・焦燥」
狂悖は「きょうはい」と読むらしい.
で、
次に出てくるのが中原中也「汚れつちまった悲しみに」というのが可笑しい.
夏目漱石「こころ」の次は谷川俊太郎「生きる」である.
漱石の先生は、どうやって悩むか、と悩んでいた.
谷川の花粉症的ハッピー感覚は、まるでめまいのような狂気である.
かくて中高生は、国語の教科書から、くったく以外の何を学ぶのか.


home