錆びたナイフ

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2015年12月10日
[映画]

「桐島、部活やめるってよ」 2012 吉田大八

「桐島、部活やめるってよ」


前半は「金曜日」というクレジットが何度も現れ、話が同じ時点、桐島がバレー部を辞めたらしいという噂の発生時点に舞い戻る.
舞台は男女共学の高校.
優秀な選手で頭が良くて全校のスターである(らしい)、この桐島という生徒は、最後まで登場しない.
桐島の恋人・梨紗(山本美月)とその女友達グループが、放課後の教室でおしゃべりをする.
桐島の親友・宏樹(東出昌大)は背の高いイケメン男子で、野球部の練習にも出ず、「帰宅部」と称する友人たちとバスケットボールで遊んでいる.
亜矢(大後寿々花)は吹奏楽部の部長で、いつも屋上からその宏樹を見ている.
剣道部の部室脇の倉庫に巣食っているのが、映画部の涼也(神木隆之介)とその仲間たち.
放課後のクラブ活動を中心に、同じシチュエーションが別の視点で繰り返され、生徒たちの人物像と関係が明らかになってゆく.
この作者・吉田大八、タダモノではない.

梨紗たち美女グループの会話はひどく大人びていて、映画部のような「みっともない」連中への陰口は辛辣で容赦がない.
その仲間のかすみ(橋本愛)は、相手に気を使ってすぐにゴメンと言う.
イケメン男子たちは、女子とスポーツのことで頭がいっぱいだ.
誰もが触れては引っ込める棘のように、カサカサしている.
本音も居場所もどこにもないまま、それでも誰かが誰かを好きになる、学校.
「はぁ?」と言うのは「あんた何考えてんの?」という意味.
勉強もスポーツもセックスもできて、何をやってもサマになるアイツらと、何をやってもダメと諦めているヤツらと、学校の中に序列と選別が出来あがっている.
己が何者であるかという声は、何処から聴こえるのか.
この「高校生映画」は、私が出会った「八月の濡れた砂」でも「渚のシンドバッド」でもない、ティム・バートンの「シザーハンズ」にいちばん似ている.

涼也と仲間たちは、校内で映画の撮影をはじめる.
顧問の教師に反対されてもゾンビ映画を作っているこの映画部が、話の伏線になっている.
映画オタクでダサくて女子にモテない彼らが、最後に大活躍する話だったら、それなりの学園映画になったろうが、どうもそうではない.
週明け、桐島が学校の屋上にいるという噂が波紋のように広がり、彼を追い求めて集まった運動部員と女子たちに、なんと映画部のゾンビが襲いかかる!
あいつもこいつもゾンビに喰われ、生きながら死ぬのだ!
吹奏楽部が演奏するワーグナーがクライマックスを迎える.

騒ぎが終わって、同じクラスなのに話をしたこともなかった涼也と宏樹が、言葉を交わす.
涼也が宏樹にカメラを向けて「やっぱかっこいいね」と言う.
カメラのファインダーの中で宏樹、「いいよ、オレは・・」
将来自分が映画監督になるのはムリだという涼也は、それでも映画を作ろうとしている.
夜も一人で練習して、ドラフトが終わるまでは引退しないと言う野球部の三年生キャプテン.
宏樹は、そのキャプテンをみっともないと感じている自分を、見つめる.
たかだか十代で、誰も彼も先がみえてしまう.
そして誰もが待ち望んだ男・桐島は、ここにいない.
練習する野球部員たちを見ている宏樹の後ろ姿で、映画は終わる.
「戦おう、ここがおれたちの世界だ、おれたちはこの世界で、生きていかなければならないのだから」
ゾンビが、そう言う.


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