錆びたナイフ

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2015年5月6日
[映画]

「未知との遭遇」 1977 スティーヴン・スピルバーグ

「未知との遭遇」


原題は、第三種接近遭遇.
70年代の名作SF映画.

空飛ぶ円盤の話である.
空から何かがやって来るという、謎と緊張感と高揚したテンポを持った作品で、何度観ても面白い.
宇宙人が地球人に語りかける最初のメッセージが音楽(音階)、というのがユニークだ.
スピルバーグはシナリオも演出も抜群に上手い.
宇宙人の信号が、地球の緯度経度を表していると気づいたスタッフたちが、大きな地球儀を転がしてきてその場所を指差すくだりなど、展開とテンポの良さにつくづく感心する.
主人公は町の電気技師ロイ(リチャード・ドレイファス).
この少し子供っぽい愚直な男に、スピルバーグは「人類の典型」というか、ある種の希望を託したのだろう.
妻(テリー・ガー)と三人の子供と暮らしているこの男、UFO(ユーフォーではないユーエフオー)に出会ってから、次第に態度がおかしくなっていく.
困惑し苛立つ妻と、自分に何が起きているのか分からずに憔悴する夫.
デビルズタワーに来るべしというメッセージを、異星人から心に刻まれた人々、つまり選ばれし人は、まるで精神的な病を負った人のように描かれる.
しかし宇宙人は、電波でもデビルズタワーを指定したのだから、地球人は誰が来てもいいよ、ということだったのだろう.
ここでも登場する横車押しの政府と軍隊は、デビルズタワー近辺に疫病が流行っているというデマを流して一般人を遠ざける.
ファーストコンタクトは我々が成し遂げるという軍 V.S. 民間人の闘い.
フランス人の宇宙学者?ラコーム(フランソワ・トリュフォー)が狂言廻しで、軍隊が仕切る展開にクギをさしている.

圧巻は、まるで池袋のパチンコ屋か!と思わせる、ビカビカ宇宙船の登場.
驚異や畏敬の象徴はすなわち「光」の洪水なのだ.
そして山場は最後、誰が宇宙船に乗せてもらえるのか、結局飛び入りで参加したロイだけが宇宙人に指名される.
この映画は、選ばれし者の狂気と至福の逸話、である.
宇宙人を見る地球人たちの顔は、みな法悦にひたっている.
ロイが地球に戻って来るのは半世紀後か?、この男は、それが望みだったのだろうか.

この作品は何度か再編集公開されていて、ロイの家族騒動のくだりがかなりカットされたバージョンを観てがっかりした覚えがある.
この「ファイナル・カット版」では、家族のシーンが増えて、ロイが妻からも近所からも白い眼でみられ、家族が破綻する様子をきちんと描いている.
こういう所をちゃんと撮れるスピルバーグはエライ.
ついでに、最後に主人公が宇宙船の中を見上げるシーンは無くなった.
作品の完成度は高くなったが、なぜかエンディングで流れた曲「星に願いを」が無くなってしまった.

登場する宇宙人は、強烈な光の中で、異様に細い手足と大きな目をしている.
スピルバーグは、宇宙人に会ったという人々の証言を元にこのイメージを作ったらしいが、あまたの映画に登場した(凶暴な)宇宙人に比べて、まるで老人か子供のようにみえる.
このイメージは「E.T」や「A.I」にも引き継がれている.
私は、空飛ぶ円盤や宇宙人というのは、宇宙から来たのではなく、人間の心の中から来ているのだと思う.
だからこの儚(はかな)げな宇宙人は、人類の無意識の姿そのものである.

宇宙船に乗り込んだロイが体験するのは次回作・第四種接近遭遇、つまり宇宙人の女と出逢う・・・
第五種、両親に紹介される.
第六種、子供が生まれる.
第七種、他の異星人と浮気をする・・・・


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