錆びたナイフ

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2015年4月1日
[映画]

「JUNO」 2007 ジェイソン・ライトマン

「JUNO」


1ガロンパックのジュースをがぶ飲みしているのは、16歳の女子高生ジュノ(エレン・ペイジ).
おシッコで妊娠検査をするためだ.
自分で調べると結果は陽性.
その相手はのっぽでぼんやり顔の同級生ポール(マイケル・セラ).
どうしよう、と頼りないポールを、ジュノは最初からあてにしていない.
女友達と相談して堕胎することにする.
雑誌で見つけた施設「WOMEN NOW」に出かけるが、思い直して産む事にする.
タウン誌の「養子求む」の記事から、写真映りが良かった若い夫婦ヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)とマーク(ジェイソン・ベイトマン)を選ぶ.
そこまで決めてから、両親に相談する.
「I'm pregnant.」
びっくりする両親.
日本なら大問題だろう.
けれど、相手の男の責任とか親を出せ、とかいう話にならないのがアメリカ流.
ジュノは父親と一緒に若夫婦に会い、生まれたら養子にする約束をする.
この若い夫婦は見るからにハイセンスで豊かな生活をしている.
ジュノの父はエアコンの修理人なのだが、どちらもそういうことはあまり気にしない.
だんだん大きくなるお腹を抱えてジュノは学校へ行く.
白い目で見られるが、平気だ.

私はどこかで、ジュノが自分で育てるという展開になるかと思ったが、そうではなかった.
里親を探してきて、赤ん坊をあげれば、それでいいんだ.
アメリカ社会では、養子のイジメや犯罪まがいの事件がないわけではない.
しかし16歳の少女が自分で決める選択肢として、なんでもあり、なのだ.
おそれいりました、と言うほかはない.
この映画の登場人物は、思いが違ってもだれもがシンプルで率直だ.
ジュノとポールは最後によりを戻すが、出産後二人とも赤ん坊に会うことはない.
その子を抱くヴァネッサが嬉しそうな顔をする.
プラグマティズム?、これ以上何がある?
ヴァネッサは母になることを熱望したが、ジュノは、自らの「母性」を理解するには若すぎた.
彼女にとって「母性」は、家族や友情と同じ「愛」のひとつにしか見えない.
小柄で饒舌な少女ジュノは、利発でピュアで魅力的にみえる.
映画はそれ以上のことを語っていない.
しかしジュノが予想しない世界がすぐ背後にある.
出産と母性が分離するのは、肉体の性と社会の性が分離するのと同じで、性も赤ん坊も商品になり、卵子も精子もそのために消費される時代が来る.
それでも「愛」はあり、だれも、困らない.

「WOMEN NOW」の前に、同級生のスー・チンが一人でプラカードを持って立っている.
か細い声で「赤ちゃんは生まれたいの!」と叫んでいる.
やってきたジュノは、なぜかモンスターの話をする.
幼い顔のスーが言う.
「それって、あんたのこと?」
そう、赤ちゃんを殺そうとしている私のこと.
いえちがう、私を殺そうとしている赤ちゃんのこと.
いえ、堕胎するなと迫る社会のこと.
セックスすれば妊娠するニンゲンのこと.
好きかと聞かれてもワカラナイ、ポールのこと・・


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