錆びたナイフ

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2015年2月1日
[ドラマ]

「夢の島少女」 1974 佐々木昭一郎

「夢の島少女」


NHKの旧作ドラマを、BSで再放送していた.
少年(横倉健児)が、川岸に倒れていた赤い服の少女を見つけ、背負って部屋に連れてくる.
少女(中尾幸世)は、ウエイトレスをしていて、男に騙されて?川に身を投げた、らしい.
部屋は運河沿いにあって、少年は工場で働いている.
少女はしばらく部屋にいたが、ある日「さようなら」とメモを残し、郷里に帰ってしまう.
少年がその後を追う.
少年が郷里で少女に逢えたのかどうか、分からない.

時間を遡って夢と現実が錯綜し、台詞は聴き取り難く、話の筋はよくわからない.
少女は海辺の村から都会に出てきた.
延々と続く単線の線路.
海岸で溺死人を菰に包んで運ぶ人々.
荷馬車が柩を引く葬列.
くりかえし聴こえるパッヘルベルのカノン.
寺山修司や羽仁進のATG映画、つげ義春や林静一の漫画を彷彿とさせる.
70年代映画の雰囲気がムンムンしている.
かつて、こういう映画ばかり観ていた.

中尾幸世はその後、佐々木の「四季・ユートピアノ」と「川の流れはバイオリンの音」でたくさんの人々に出会うが、この作品の少女は、無口で孤独で所在ない顔をしている.
この朴訥で内閉した心は、今なら独りよがりに見えるだろう.
男に誘い出されるのがイヤなら、サッサと電話を切ればいい・・
男も少年も少女の扉を叩いているのに、少女はあらぬ方を見ている.
心の中にあるものを延々と手探りするような事大主義は、肉体のその奥に精神が隠れていると信じているかのようだ.
サングラスをかけると三流のフォークシンガーみたいな少年の、白い松葉杖は傷心の証だが、鬱屈した思いのほかどんな歌声も聴こえない.
だれも他人の声を聴いていない少年の世界で、ナイフで男を刺す妄想.
誰かを熱望しながら、誰にも出会えない「ボーイ ミーツ ガール」.

エンディングは東京湾「夢の島」の空撮映像.
少年が、赤い服の少女を背負って歩いている.
小柄な少年に少女のからだは重い.
それがこの映画の唯一の希望であるかのように、その重さが伝わってくる.
だからこれは少年の夢で、
少女は郷里で嫁に行ったか街で娼婦になったか、少年の部屋には帰ってこなかった.
今はもうだれも、こんな苦しい映画を作らない.


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