錆びたナイフ

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2015年1月21日
[映画]

「96時間」 2008 ピエール・モレル

「96時間」


秘密工作員の晩年というのは、あまりはかばかしくないらしい.
仕事一途で家庭を顧みなかった主人公ブライアン(リーアム・ニーソン)は、ボディーガードなどをして糊口をしのいでいる.
17歳の娘が彼の生き甲斐だが、再婚した元妻はブライアンが娘に会いに来るのを快く思わない.
その娘が旅行先のパリで誘拐される.
連れ戻す期限は4日(96時間)
怒り狂った父がパリを暴走する.
アドレナリン全開、悪い奴らは皆殺し.
「ニキータ/レオン」のリュック・ベッソン制作、「トランスポーター」のカメラ、ピエール・モレル監督.
たたみかけるような話の展開と映像は見事で、息が詰まるような緊張感と迫力がある.
英語を喋るフランス映画は、最近ますます小気味よく、能天気になった.

犯人はアルバニア系の人身売買組織.
次々と奸計をめぐらす悪漢に苦闘しつつ主人公は最後に勝つ、というようなカッタルイ展開ではない.
ブライアンは元アメリカ政府秘密工作員の能力と体力でズンズン組織を追いつめる.
「蛇の道は蛇」である.
フランスの元諜報部員で友人でもあったジャン(オリヴィエ・ラブルダン)は、誘拐組織から賄賂を受取っていた.
ブライアンはジャンの眼前でその妻に発砲し組織の情報を聞き出す.
娘を救い出すためなら何でもする.
友人も警察も国家も蹴散らす圧倒的な暴力.
「娘を返すなら、見逃してやる
 だが返さないなら
 お前を捜し、お前を追いつめ
 そしてお前を殺す」
これはブライアンが誘拐犯に告げたセリフ.
まるで被害者と加害者が逆転している.
彼ら誘拐犯は「神=アメリカ」の逆鱗に触れたのだ.
雷鳴のような銃弾に、次々と吹き飛ばされる「ワルモノ」たち.
観客は誰もがこの「正義の神」の側に立つ.

この映画、米国流の甘ったるい父娘愛はあっても、ユーモアはない.
家族の愛は至上のものだ、それを踏みにじるものは許さない.
自分は正しいと思うことをする、それを妨げるものを排除し、犯人には報復する.
誰もが、不法と不道徳に無力となった社会に「神の鉄槌」を渇望する.
かくて映画は報復の「続編」を呼び起こし、ブライアンは再び修羅の世界に落ちる.
結局その後もひどい目にあうこの娘が、まっとうな大人に育った時、問題はこの男とその背後の力そのものだと、気づくだろうか.


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