錆びたナイフ

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2015年1月5日
[映画]

「風にそよぐ草」 2009 アラン・レネ

「風にそよぐ草」


昨年は映画を115本観た.
BS放送の番組表で目についたものを録画して、夜に一本づつ観た.
題名だけでどんな映画か分からずに観はじめると、割れた地面から生えた草なんぞを写して、妙な雰囲気で、底が知れない、というのがこの映画.

歯科医のマルグリットがバックをひったくりされ、初老の主人公ジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)が、捨てられていた財布を拾う.
財布には身分証とか写真が入っている.
この主人公、財布を届けた警官(マチュー・アマルリック)に変人と思われるとおり、どこか挙動がヘンで、しきりに財布の持ち主のマルグリットに会おうとする.
ストーカーまがいの行為をするに及んで、犯罪映画か?と思わせる.
警官がジョルジュの家にやってきて、つきまといを止めるように説得する辺りから、話の底が見えて面白くなる.
ヒロインの言動がおかしくなる.
彼女の歯科治療はうわのそらになり患者が痛い痛いと叫ぶ.
ゆれてぶれて狂ってゆくマルグリット、ライオン頭のサビーヌ・アゼマがいい.
気持ちがバラバラなのに、お互い相手が気になって仕方がないのだ.
これははたして恋愛だろうか.
ジョルジュには妻子があるのだが、なんだか熱病のように、二人はぎくしゃくした展開のまま、飛行場で抱き合って「Fin」マークが出る.
いや、まだ続きがある.
マルグリットの操縦する軽飛行機にジョルジュとその妻が乗る.
ジョルジュは、自分のズボンの前チャックが壊れているのを気にしている.
軽飛行機は上空であらぬ宙返りをして墜落する.
話はそれでおしまい.
とても可笑しい.
多分墜落する機内で、ジョルジュはしかめっ面をしマルグリットは笑っていただろう.

アラン・レネは昨年91歳で亡くなったが、これは87歳の作品.
『生とは性によって伝染し、死によって治癒される病である』ラカン


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