錆びたナイフ

back index next

2014年9月5日
[映画]

「オカンの嫁入り」 2010 呉美保(オ・ミポ)

「オカンの嫁入り」-1


表札に「もりい・ようこ・つきこ」と書いてある.
母・陽子(大竹しのぶ)と娘・月子(宮崎あおい)の二人暮らし.
ある日母が若い男を家に連れて来て、結婚する、と言う.
反撥する娘.
するとストーリーは、この娘がどうやって母の結婚とその相手を受け入れるのか、と想像できてしまう.

母が連れてきた男、赤いジャンパーを着て金髪で大男の研二(桐谷健太)は、いつもワハハと笑っているか、スミマセンスミマセンと謝っている.
この男のガサツで繊細なキャラクターが、話の展開を支えている.
月子は、家に押しかけて来たこの男も、そんなことをする母も許せないと、ムクレている.
月子は職場の同僚からストーカーされて以来、電車に乗るのが怖くて、仕事をやめている.
母は近所の病院で働いていて、そこの村上医師(國村隼)が月子の父親代りになっている.
隣家に住む世話好きの大家・サク(絵沢萌子)は祖母代りだ.
月子はサクと村上には心を開いている.
月子の同世代の若者は登場しない.

映画は、ゆるい家族のようなこの五人を、ゆっくり移動するカメラと、丹念な長回しで撮っている.
母は、結婚のことをあまり説明しない.
研二のことは「ヘラヘラしているところがいい」と言う.
「母の結婚を許せない娘と、余命一年を言い出せない母。
 どうしてこんなに 素直になれないのだろう。」
陽子から見れば、この宣伝コピーはちがう.
余命一年だから結婚するのでも、それを娘に説明できないのでもない.
心の底からそうしたいからする.
どんなに月子が反撥しても、それで二人は素直なのだ.
「一緒にいられたら、それでいい」
このコピーもちがう.
男も女も家族も、いつか一緒にいられなくなる.
だからどれほど気持ちがずれていても、今が大事なんだ.
この映画、大竹しのぶの存在感が、原作のテーマを越えてしまった.

母から余命の話を聞いた月子が、サクの部屋で泣いていると、携帯電話が鳴る.
「月ちゃーん、何処におるん?」と陽子の元気な声.
泣き顔で返事をする月子.
もっと前に教えてくれていたら、と娘が母を責めると、
「死ぬから(結婚を)受け入れるん?、そんなん全然嬉しない」と言う.
この母は自分が生きることに真っ直ぐで無防備で裏も表もない.
陽子が白無垢を着て月子に述懐するシーンは、物語のハイライトのはずだが、この映画は結局月子の話ではなく、陽子の物語なのだ.
しかし陽子と研二のふたりだけの思いは、ほとんど画面に出てこない.
大竹しのぶの陽子は、天性のように、しなやかな切なさを持っていて、こんな女性を愛した男は「夢のように苦しい」思いをするだろう.

「オカンの嫁入り」-2

「おかあさん 結婚することにしたから。」
ああ、このコピーが一番いい.


home