錆びたナイフ

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2014年7月11日
[映画]

「花嫁と角砂糖」 2011 レザ・ミルキャリミ

「花嫁と角砂糖」


劇場未公開、NHK-BSで放映.
所はイラン.
これから結婚して外国に住むという花嫁パサンド(ナガール・ジャワヘリアン)が、台所でラジカセの英会話を聴いている.
この清楚なヒロインの婿は、隣家の金持ちの息子で、海外にいるらしく、最後まで登場しない.
母(ソヘイラ・ラザウィ)とパサンドが住んでいるのは叔父夫婦の家で、そこへ彼女の結婚前祝いに、五人姉妹の家族たちが集まってくる.
その数日間の話.
映画の舞台はほとんどこの家の中で、大人も子供も出入りの電気屋まで、たくさんの人びとがいる.
あけすけない姉妹の会話とともに、作者はこの大家族を丹念に描く.
子供達が駆け回り、床に敷いた敷物の上にたくさんの料理が並ぶ.
男女は別々の部屋で雑魚寝.
頻繁な停電で扇風機も止まる.

宴の翌朝、パサンドの父親代わりだった叔父エッザト(サイド・プールササミ)が、心臓発作で死んでしまう.
結婚のお祝いは葬式に変わる.
正に「お日柄もよくご愁傷様」で、ドタバタ喜劇かというと、そうでもない.
しかしこの映画、どこかじわっとしたユーモアがある.
涙を流さないのは身体に悪いと、ムコたちが義母を泣かせるように、コーランを歌う.
一方で、倉庫の床下に宝が埋めてあると見込んだムコたち、一人が葬式の晩に掘り返す.
出てきたのは木の根っ子.

その最中、叔母の甥ガゼムが一日だけ兵役休暇で帰ってくる.
彼は若い頃この家に寄宿していて、亡くなった叔父は彼とパサンドを結婚させたかったらしい.
ガゼムは叔父の死に驚く.
が、彼はパサンドの婚約を知っていたのだろうか?
再会した二人は言葉少なで、彼は叔父が使っていたラジオを修理して、分かれも告げず部隊に戻る.
夜、皆が寝静まった頃、パサンドが叔父の部屋へ行くと、停電が復旧して、ラジオから恋の音楽が流れている.
それを聴くヒロインの顔で、エンド.

花嫁パサンドは、時に寂しげな顔をしていて、賑やかな画面の中で静かな花のように見える.
それがこの最後のラジオのシーンで、何とも切ない気持ちにさせる.
もしかしてガゼムと結ばれるのかもしれない.
登場人物の顔も、言葉にならない思いも、この監督が敬愛するという日本映画にどこか似ている.
見事な映画だと思う.


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