錆びたナイフ

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2014年6月12日
[映画]

「幸福のスイッチ」 2006 安田真奈

「幸福のスイッチ」


地方の電気店「イナデン」を営む父(沢田研二)とその三姉妹.
母が死んだのは、父がお客様第一仕事優先で、家族を大事にしなかったせいだと、次女(上野樹里)は父に反発して家を出てしまう.
その父が骨折で入院し、次女がダマされるように呼び戻されて店を手伝う、ひと月ほどの話.
ベッドに寝たまま携帯電話でお客の対応をして、次々と娘に指示を出す父.
ガンコな男だが、お客さんのために懸命なのだ.
店は、結婚して大きなお腹で手伝いに来ている姉(本上まなみ)と、高校生の妹(中村静香)、次女の幼なじみでメーカー派遣の若者(林剛史)で切盛りしている.
リモコンの使い方が分からないとかヒューズが切れたとか、仕事はお客の雑用ばかりだ.
老婆(新屋英子)の家で、マッサージ機械を移動して、家具の移動や掃除まで無料で手伝う.
姉と妹は気にもせずさっさと働くが、次女はこんなもうからん仕事ばかりおかしい、とむくれ顔をしている.
この、ずーっとむくれている次女も、おっとりした姉も、元気な妹も、魅力がある.
毎日店に遊びにくる近所のおっさんたちを迷惑だと思わない、というのも、実は作者の力量だ.

何をきっかけにこの次女が、コツコツ働くことの意義を学び、仕事の喜びと父との信頼関係を取り戻すのか、話の展開は見えてしまうのが面白い.
家電量販店に対抗して、地域の電気店がどうやって生き残るかというのも大きなテーマ.
次女は、マッサージ機の老婆の耳が遠くなっているのに気づいて、補聴器を世話する.
すると嫁の声が聴こえるようになって、嫁姑のわだかまりが解消する.
地元に暮らす人々の生活の隅々まで知っている電気店が、製品を売るだけではない、アフターサービスだけでもない、医療や介護や生きがいも支援している.
これはかつてその地の家族や共同体が担っていた役割だ.

父が、町の飲み屋の女将(深浦加奈子)と浮気をしているのではないかと、次女の疑いが物語の伏線になっている.
直接聞きに行こうと、妹が次女を連れて飲み屋に行く.
なぁんだ何もなかったじゃない、いい人みたいだし、
というふうにしなかったのが脚本の良さ.
父は母のことを忘れていない(浮気はしていない)けれど、二人はビミョーに怪しい、という娘たちの結論が可笑しい.
ああ、こういう親子は、いい.
この女将と父との関係を中心に描いたら、また別のいい作品になったと思う.
原案/脚本/監督、安田真奈、映画の監督は2作目.


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