錆びたナイフ

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2014年4月4日
[映画]

「ハート・ロッカー」 2008 キャスリン・ビグロー

「ハート・ロッカー」


激しく揺れる画面、異様な緊張感.
2004年イラクでのアメリカ軍爆発物処理チームの男たちを描く.
彼らはリモコン戦車のようなロボットと、まるで宇宙服のような耐爆弾スーツを使う.
原題の「THE HURT LOCKER」とは、このスーツのことか?

バクダッドは古代から栄えた土地だが、街の映像は荒廃している.
ここにいるアメリカ軍は、この国を「解放」したはずなのだが、毎日のように爆弾テロがある.
完全武装した兵士が銃を構えて、市民に、近づくな!と叫ぶ.
爆弾処理を遠巻きに見物する人々.
彼らの中に、これを仕掛けた人間がいる.
兵士の銃眼を通して人々の顔が映る.
誰も信じられない.
アフガニスタンからあと、アメリカの戦争は変質した.
嘗ての「共産主義との戦い」などとはまるで違う.
自分たちは誰を守ろうとしているのか.
兵士たちの憔悴が画面にあふれる.

新任のジェームズ軍曹(ジェレミー・レナー)がチームに参加する.
この男、危険を恐れない.
起爆装置の解除が困難であればあるほど、その作業にのめり込む.
死ぬ時は一緒だと考えているのか、耐爆弾スーツを外して作業をしたりする.
チームのサンボーン(アンソニー・マッキー)は、ジェームズが無謀で自分勝手だと反発する.
それでもジェームズは、淡々と仕事をこなす.
映画は、この男を「ヒーロー」のように描いていない.
この男はどこか一線を越えて、自分も世界も何が「ヘン」だか考えることをやめたのだ.
襲撃されれば即応戦する、ヤツラの爆弾はさっさと始末する、命をかけて.
しかし、ヤツラとは誰だ?
基地の露天でビデオを売っていたサッカー少年は、誰だ?

アメリカ軍基地前の道路に男が一人立っている.
兵士が一斉に銃を向けて怒鳴る
男は助けてくれと言っている.
体に爆弾を巻き付けられている.
強制的な自爆テロだ.
ジェームズはそれを外そうとするが、時間が足りない.
男に「I'm sorry」と告げて逃げ出す.
男は天を仰いで爆死する.
慄然とするシーンだ.
テロという名の人間の行為のこの底知れぬおぞましさを、
ジェームズたちとそしてテロリストたちは、どうやって乗り越えたのか.

あと何日この地で生き残れるかと、日々を数えた兵士たちのミッションが終わる.
ジェームズは一旦帰国して家族に会うが、再び戦場に戻り、そこで映画は終る.
冒頭に「戦争は麻薬だ(war is a drug)」というクレジットが出るが、
兵士も、テロリストも、その先の狂気の淵を歩いている.
我々はいったい何を見ているのか.
「地獄の黙示録」のキルゴアやカーツ大佐でさえ、はるかに牧歌的だった.


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