錆びたナイフ

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2014年3月8日
[映画]

「グラン・トリノ」 2008 クリント・イーストウッド

「グラン・トリノ」


冒頭は妻の葬式.
苦虫を噛み潰したような男ウォルト(クリント・イーストウッド).
フォードの職工だったウォルトは、
息子の家族がトヨタ車に乗るのが気に入らない.
チャラチャラして軽薄な孫たちも気に入らない.
町にたむろする黒人や白人の若者たちも気に入らない.
世の中の何もかも気に入らない.
ましてや隣に越してきた東洋人一家は、鳥のさえずりのように喧しい.
その一家の少年タオ(ビー・ヴァン)が、同じモン族のチンピラたちにそそのかされて、ウォルトの愛車グラン・トリノを盗もうとする.
その事件をきっかけに、ウォルトの家に少年とその姉スー(アーニー・ハー)が出入りするようになる.
隣家で英語を喋るのはこの姉弟だけだ.

ウォルトは口が悪い.
男は仕事をもち世界一の女と所帯をもつべきだ.
仕事もガールフレンドもなく、毎日庭いじりをしている少年には辛辣だ.
ぺーっと唾を吐くように、人種差別的言葉を吐きちらす.
イタリア系の床屋のオヤジとポーランド系であるウォルトのやりとりを少年に見せて、お前もやってみろ、というのが可笑しい.
お互いのけなし合いなのだが、ある種のルールがあって、それを体得するのは移民の国アメリカで生きる基本的ノウハウなのだ.
口にするのは能力や欠点ばかりではない、出自や肌の色などどうにもできないことも言ってのけるが、 これは「イジメ」とちがう.
誰もがそこから出発しろ、ということだ.

人権も平等も知ったことか.
朝鮮戦争の人殺しも、老人ホームへ入れという息子たちも、懺悔せよと迫るカトリックの神父も、ロクなもんじゃなかった.
女房だけが素晴らしかった.
男なら、こうして生きる以外に何があった?
今や幽鬼のような風貌のこの老人は、アメリカという国がたどり着いた労働者のひとつの夢だ.
ハリー・キャラハンの頃と同じ、眩しそうに細めた眼の奥に、嘗て抱えていた強い怒りは、深い悲哀にかわった.
この国を作ったのはオレたちだ.
Go ahead, make my day!


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