錆びたナイフ

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2014年1月20日
[映画]

「太秦ライムライト」 2013 落合賢

「太秦ライムライト」


BSで放送されたが、劇場では未公開.
京都の太秦(うずまさ)撮影所で、長年斬られ役を演じてきた福本清三と、その下で演技を学び成長するヒロインさつき(山本千尋).
仕出しと呼ばれる下積みの役者たちは、毎朝、撮影所前の貼り紙でその日の仕事が決まる.
テレビ時代劇が減った上に、福本は高齢で仕事がだんだん少なくなる.
夜、引退した女優(萬田久子)の飲み屋でくだを巻いているのは、撮影所の仲間たち.
時代劇を愛する人たちの世界である.

私が子供の頃映画で観た殺陣(たて)は、青眼に構えたヒーローの剣の重さがズシリと伝わってきたが、
テレビ時代劇の殺陣は、呼吸とスピードと見栄が一体となった、いわば集団舞踏のようなものだ.
さつきが福本から受ける修行は、まるで師匠が弟子に「剣術」の極意を伝授するようだ.
皺だらけの顔でボソっと台詞を吐く福本は、役者というより年期の入った老職人のようで、その存在感がこの映画を支えている.

映画の放映の前にBSで放送した、
「UZUMASAの火花~映画村、京都・太秦に異国の風吹く~」
というメイキング・ドキュメンタリーが面白い.
ハリウッドで学んだ若い監督落合賢と太秦の時代劇スタッフが、映画制作で火花を散らす、という話.
時代劇を作る映画(「太秦ライムライト」)を作るところを、撮影している.
日米の撮影方法の違いより、私はこの劇中劇中劇、めまいがするほどの虚実ごちゃまぜ混沌に驚いた.
劇中で素人のさつきに殺陣を教えるスタッフたちが、山本千尋の太極拳武術のビデオをみてびっくりする.
福本の体力を気づかう主役(松方弘樹)に、福本が挑発的な台詞を吐くシーンは、そんなこと言えまへん、と何度もNGを出す.
福本はトミー・リー・ジョーンズとCMで共演したほどの役者であり、彼の引退話は映画のストーリーのはずなのだが、何やらどこまでホントの話なのだろうか.
と思わせたら、このドキュメンタリーは成功である.

アメリカ人カメラマン(クリス・フライリク)の本編映像はクリアで、福本の表情がいい.
話の展開はもろ日本風で、ハリウッドらしさが皆無なところが可笑しい.
生涯端役のままでいいという役者は、ハリウッドにはいないだろう.
これは日本人の人生観でもある.


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