錆びたナイフ

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2013年11月1日
[映画]

「群盗荒野を裂く」 1966 ダミアーノ・ダミアーニ

群盗荒野を裂く


20世紀初頭メキシコ革命の時代.
ダミアーニはイタリア映画監督なので、マカロニウェスタンかと思う.
鉄道は広軌だし、
いくらサボテンを立てても、撮影しているのはスペインの荒野に見える.
台詞の声がどこか不自然でリアリティがないのは、イタリアの役者が、メキシコ人のスペイン語ではなく英語を喋っているという、妙な取合せのせいだろうか.
やたら銃をぶっ放すが、
ケレン味たっぷりのマカロニウェスタンとはひと味違う.

画面のタイトルは「EL CHUCHO QUIEN SABE?」
「EL CHUNCHO」の間違いじゃないか?と、Google翻訳が指摘する.
「チュンチョを知っているか?」
そいつは「群盗」の頭目(ジャン・マリア・ヴォロンテ)だ.
一寸三船敏郎を思わせるこの男の傍若無人ぶりがいい.

冒頭、民衆を弾圧する政府軍を横目に、デュランゴ行きの列車にアメリカ人のビル(ルー・カステル)が乗り込む.
列車を守る政府軍を、卑劣な手段で襲ってきたのがチュンチョたち盗賊だ.
そこで盗賊の仲間になったビルは寡黙でニヒルなのだが、童顔なのが可笑しい.
チュンチョはビルをニーニョ(坊や)と呼んで信頼する.
彼らは政府軍から奪った武器を革命派に売っており、チュンチョはその革命派の首領エリアスを崇拝している.
我々は民衆の味方だと、仲間の(怪優)クラウス・キンスキーが言う.

この映画の主人公はビルではなくチュンチョだ.
この、盗賊で、酒飲みで、女好きで、革命家気取りで、暴虐で、人情味が(多少)あって、いい加減で、裏切りを許さない男.
この男、ただの極悪人ではない.
ビルはチュンチョと共に革命派の陣地にたどり着き、エリアスを暗殺する.
それがビルの目的だったのだ.
暗殺を依頼した政府軍から大金を受取ったビルは、チュンチョに金を渡して一緒にアメリカへ行こうと言う.
半分その気になったチュンチョ、しかし最後はビルに銃を向ける.
お前を金持ちにしたじゃないか、なぜだ理由を言え.
なぜか分からないがお前を殺す.
引金を引く.
カバンからこぼれた金貨を靴磨きの少年が拾うと、
夢から醒めたように、
「(政府軍の)その金でパンを買うな、ダイナマイトを買え」
と叫んで走り去るチュンチョ.
革命思想とは縁もゆかりもないこのガサツな男こそ、メキシコの夢と希望なのだ.
と、イタリア人のダミアーニ監督は見抜いたのである.


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