錆びたナイフ

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2013年8月1日
[映画]

「あの日の指輪を待つきみへ」 2007 R・アッテンボロー

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原題はCLOSING THE RING、邦題は的外れで、それを掘り起こそうとした男のほか、指輪を「待っていた人」はいない.
一人の女と彼女を愛した三人の男の、半世紀にわたる話.
現在(1991年頃)と50年前の戦争とミシガン州とアイルランドが交錯する.
話の展開が見事で、映画として文句なく面白い.
テディとジャックとチャック三人の若者が、輝くばかりに美しいエセル(ミーシャ・バートン)と出会う.
テディはエセルのために家を作り、二人は愛を誓い、テディは、自分が死んだらジャックとチャックどちらかがエセルを支えるように、男たちだけの約束をする.
教会で4人だけの結婚式をした時、一つしかない結婚指輪をテディが受けとり、三人の男は戦場へ向かう.
テディは乗っていた軍用機の墜落で死に、やがてエセルはチャックと結婚をし娘をもうける.
そのチャックが亡くなった「現在」からこの映画は始まる.
エセル(シャーリー・マクレーン)は葬式場の外でタバコをふかしている.
ジャック(クリストファー・プラマー)はエセルの力になろうとするが、彼女は頑なで頑固だ.
娘は、父に冷淡だった母を責めるが、エセルにとってチャックは「親切な男」に過ぎなかった.
約束をした三人の男たちの中で、今ジャックだけが生き残った.
テディを失って、21歳で人生は終ったというエセルは、酒を飲んでテレビを見ているだけだ.
50年彼女を愛し続けながら、友情を盾に、思いを告げなかったジャックの懊悩が始まる.
私は何故か沢島忠の「人生劇場 飛車角」を思い出した.
おとよ(佐久間良子)を巡る飛車角(鶴田浩二)と宮川(高倉健)の葛藤は、実は女の気持ちなどなんも考えていない.
義理と人情を秤にかけるような男がアホなのだ.

テディが墜落したアイルランドで、老人と若者がエセルとテディと書かれた指輪を掘り起こして、話が動き出す.
嘗て墜落現場にいた地元の若者クィンランは、死に際のテディから、エセルに自由に生きろと伝えるように頼まれ、約束する.
今は老人のクィンランは名脇役ピート・ポスルスウェイト.
彼は50年、テディから受取りそこねた指輪を、地面を掘り返して探し続けたのである.
エセルに届けられた指輪は騒動を起こし、真相が明らかになってくる.
エセルが命じて家の壁を壊すと、50年前に封印したテディの写真と遺品が出てくる.
テディを知らない娘にとっては、まるでホラー映画である.
この時、エセルはやっと、自分の中のテディと向き合う決心をしたのだ.
アイルランドで、エセルはクィンランからテディの最後の言葉を聞き、「指輪の自縛」から解放される.

I promise という言葉の重さは、ユダヤ/キリスト教の世界では別格である.
シャーリー・マクレーンの演じる、年老いて脱け殻のようなヒロインは、実はあまり魅力的ではない.
それでも50年昔と同じく愛するというジャックはエライ!
しかし女は、男どもの勝手な約束など笑い飛ばすか、あるいは、目の前の男とさっさと幸せになればよかった.
だからこの話は、男が考えたに違いない.
アイルランドにやってきたヒロインが、一瞬はにかんだような笑顔をみせるシーンがある.
ああ、タレ目で泣き顔の、往年のシャーリー・マクレーンの笑顔だ.
我々老人は、嘗て魅了された美女たちを、いつまでも忘れないのである.


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