錆びたナイフ

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2013年6月6日
[映画]

「死ぬまでにしたい10のこと」 2003 イザベル・コヘット

「死ぬまでにしたい10のこと」


突然、医者から余命数ヶ月と告げられたアン(サラ・ポーリー)は23歳
母親の家のトレーラーハウスで暮らしている.
高校で知り合って結婚して子供(娘)が二人、若い夫はやっと仕事が見つかったところだ.
夜勤で働く自分も母も夫も、一番底辺の労働者だ.
死ぬのが悲しいのは、自分のことではなく、
家族が悲しむのが痛いほどよく分かるからだ.
だから誰にも告げない.
泣いたりわめいたりしない.
ひどく静かな映画で、作者はスペインの女性監督コヘット
アメリカかカナダが舞台と思うのだが、なぜか携帯電話はなく、カセットテープがある.

字幕で「私は・・」となっているアンのモノローグは、実際は「You ...」と、自分に呼びかけている.
スーパーマーケットで皆が踊りだす「妙な」シーンがある.
不安や恐れや怒りの先で、アンはこの人生を受け入れたのだ.

自分のしたいことを10こ書いた.
思ったことを言う、タバコやお酒を好きなだけのむ、美容院で変身する、
こういうことはあまり上手くいかなかった.
娘たちに愛していると毎日言う、娘の誕生日にメッセージを残す、みんなで海岸へピクニックに行く、夫ドンの新しい妻をさがす、刑務所にいる父親に会いに行く・・
他の男たちとセックスする(それがどんなふうか)・・
誰かと恋に落ちる・・
この平凡で微かに飛躍するアンの思いが、この映画のトーンになっている.
やり残したことをやる、生きたいように生きる、というのと少し違う.
家族はかけがいのないものだが、一人の女として、こうしたかった.
数ヶ月後にアンがこの世にいなくなった時、
夫以外でただ一人愛された男(マーク・ラファロ)から見れば、アンはこの世ならぬ処から来て消えてしまった天使のようにみえるだろう.

「したいこと」を決めた後で現れたこの恋人や、隣に越してきた子供好きの女性(レオノール・ワトリング)は、アンの「夢」だったかもしれない.
もう起きていられなくなったアンの前で、部屋のすだれビーズがキラキラゆれる.
その向こうで食事の支度をする家族たち.
原題は「MY LIFE WITHOUT ME」
彼女のしたことは、死んでしまうことも含めて、残った人を悲しませ傷つける.
けれど、死んでしまえばそんなこと気にしなくていい.
サヨナラ、みんな上手くやってね.


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