錆びたナイフ

back index next

2013年4月9日
[映画]

「RAILWAYS」 2010 錦織良成

「RAILWAYS」


49歳で電車の運転士になった男の物語
大会社の要職にあった主人公(中井貴一)が、その職を捨てて故郷に戻り、子供の頃からの夢だった電車の運転手になる、という話

会社優先の仕事人間で家族から多少疎まれているが、有能で折り目正しいこの主人公なら、電車の運転手になれる、と思う.
そして、その通りになる.
同僚の死や、故郷で一人暮らし母の入院がきっかけになっているが、
元の会社でトラブルがあったのではないし、仕事に生きがいがなかった、わけでもない.
電車の運転手になりたくても、能力がない、家族が許さない、わけでもない.
静かな故郷で、娘との絆も回復し、東京で暮らす妻もこれでいい、と言う.
母の入院する病院の前を、男の運転する電車が走る.
窓から手を振る母と娘(孫)
余命を告げられたのは母ではなく、この男だったのか?
と思わせる.

結果的に親切な運転手として地元民からも信頼されることと、
元の会社で有能な幹部として嘱望されることとは、違うのだろうか.
地方鉄道はどこも存亡の危機にあり、やがてこの主人公は、嘗ての会社で工場閉鎖の指揮を取った経験を活かすことになる・・
と考えたら意地が悪い.
ただ良い製品を作りたいと望んでいた同僚の工場長と同じく、
電車を運転できればいいと思っていても、会社が潰れてしまえばそれもかなわない.
劇中で橋爪功と佐野史郎が社長と営業部長を演じる一畑電鉄は、とてもいい会社にみえる.
しかし利用者が減少し採算の合わない地方鉄道の未来は明白で、
これを存続させる方法は、鉄道を愛する人たちの寄付とボランティアしかない.
まさにこの主人公がしたように、
給料は安くてもかまいません、の一歩先に、それがある.
するとそれは、もはや効率でも金銭でも経済でもない「贈与」の世界で、それは新しくて古い「あの世」のことでもある.


home