錆びたナイフ

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2013年3月18日
[映画]

「男はつらいよ」 1969 山田洋次

「男はつらいよ」


てめぇらみてえな菜っ葉服の職工に妹のさくらはやれねぇ!
第一作目の寅次郎は喧嘩早くて口が悪い.
「職工」の博は寅と対決する.
兄さんには人の気持ちが分からないんですか!
分かるわけがないだろぅ、いいか、俺とお前は別の人間だよ、たとえば俺が芋を喰ってお前のケツから屁が出るか?
何度見ても心底可笑しいのは、この印刷工とテキヤの組み合わせの珍妙さと、それでも対話しようとする二人の努力だ.
男はつらいよシリーズには、この、テキヤと大学教授とか画家とか証券会社社員とか、妙な組み合わせが数々登場する.
よく考えればありそうにない出会いが不自然に見えないのは、シナリオが優れているからである.
博はさくらへの思いをポロリと口に出す.
相手がストレートだと、寅はそれを受け止めるのだが、しかしそのやり方はいい加減で、結局双方の思いをぶち壊す.
とら屋の茶の間に飛び込んだ博が、さくらに思いを告げて去る、有名なシーンのあと、
お兄ちゃん、博さんに何をしたの?
お兄ちゃんのバカ!
さくらは飛び出して博を追う.
ここから先がすごい、帰ってきたさくらは真っ先に、
私、博さんと結婚する、いいでしょう?と、兄に言うのである.
その兄、うなずく.
何度見ても見事な展開で、そのシナリオのすごさに圧倒される.
寅のやり方はみんな裏目に出るのだが、二転三転しながら、大団円になる.

寅次郎は誰にでも親切ではないし、いい加減で自分勝手で短気でコロコロ気分が変わる.
この男の良さは、悪気がないこと、そしてその性格が全く変わらないこと、である.
さくらのお見合いに出席して縁談を壊したのも、寅は地のままだったのに、周りがそれじゃダメだと騒いだのである.

終盤、寅がマドンナに振られてションボリしているところへ、とら屋の連中が帰ってきて、寅は押入れに隠れる.
「まくらさくらを取ってくれ・・」の有名なシーン
この身もだえるような悲しみとバツの悪さと・・観客は、涙を流しながら「笑う」しかないのである.
誰もがそのまま全力で疾走しているから、可笑しいのだ.
これが、喜劇だ.

旅へ出るという寅に、
お兄ちゃん怒ってるのね
どこへも行くところがないじゃない
と叫ぶさくら
上野駅で舎弟の登を追い返した寅が、ラーメンを食べながら泣く
怒っちゃいない、
自分が、つくづく情けなかったのだ.


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