錆びたナイフ

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2013年3月13日
[本]

「つゆのひぬま」「火の杯」 山本周五郎

「つゆのひぬま」「火の杯」


本棚にあった古い母の本を読む.
「つゆのひぬま」は表題作のほかに「将監さまの細みち」「肌匂う」「深川安楽亭」「花杖記」など.
山本周五郎は何度読んでもからだがふるえる.
電車内で読んでいると涙があふれてうろたえる.
どれも文句のない傑作
昔の、江戸時代の、人々の生活や仕事や生き様がそのまま、私たちの心をつかむ.
周五郎の描く女たちは誰も深い覚悟を持っていて、優しさの向こうにすっくと立っている.
好きあった男女が登場しても、結ばれるとは限らない話があって、読んでいて頁をめくるのが怖くなる.
どうしてなのかと作者に問えば、自分でもわからない、と答えるだろう.

「火の杯」は昭和26年作、現代物の長篇
ミステリー仕立てだが、戦中戦後の貴族/財閥の人間模様を、作者の好悪そのままに描いていて、前掲作とはかなり違う.
山本周五郎は晩年、自分の思い通りに人物を描くことから、はるか先へ行ったのだと思う.
「人の為す悪」など高が知れてる、とでも言うように.


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