錆びたナイフ

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2013年2月25日
[本]

「思想をつむぐ人たち」 鶴見俊輔

「思想をつむぐ人たち」


「フォーク・ソングは、ただの政治的宣伝にすぎぬという立場から言えば、はがゆいばかりのもので、広場に何時間もたってフォーク・ソングを歌うというのは、政治的目的から見て、ひまつぶしに過ぎない。しかし、片桐の評価では、「山は海にあらいながされるまでに何年存在し得るか?(ボブディラン)」と歌う人は、歌いながら、絶望から希望までの意味のふりはばが自分のうちにあらわれるのを感じ、そのふりはばの中から誰に命令されたのでもなくこの瞬間の自分の決断によって、自由をめざす行動をえらぶことに新しくかける。この決断の自由の生じる場を、フォーク・ソングがつくる。」
「ベ平連」時代を思い出す・・
この片桐ユズルの思いは、著者・鶴見俊輔のスタンスでもある.
イシという名のアメリカ先住民から、漫画家の加藤芳郎、物理学者の武谷三男、「黄金バット」の作者加太こうじ、金子ふみ子、井上ひさし、ガンジー、ミヤコ蝶々、この書に登場する43名の「人たち」は全員が思想家というわけではない.
国家という名による抑圧、無理解という名の暴力から、自由であろうとする生きざまそのものが思想であると、著者は考えているようだ.
語り口は平易で、この驚くべき広範囲の人選は、鶴見の深い知識と自由な価値観に根ざしている.
ここで取り上げるような人たちが世の中に沢山いること、あるいは著者のように、そういう人たちを見つけ出す人がいる、ということは大事なことだ.
鶴見は今よりもっとマシな世界があるはずだと思っている.
それは社会の仕組みとして実現可能だとも思っている.
そのためには「自由」が必須だと思っている.
自らの意思で生まれた訳でもない人間にとって、そもそも自由とは何か、とは問わない.
語られた「人たち」がその人生を全うするために「自由な意志」が必要なのだ.
社会はその総体である.
鶴見俊輔90歳、これほど腰のすわったリベラリストは、もう他にいなくなった.


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