錆びたナイフ

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2013年1月30日
[映画]

「喜劇 にっぽんのお婆あちゃん」 1962 今井正

「喜劇 にっぽんのお婆あちゃん」


昭和37年.
隅田川が臭くて飛び込む気にならなかった時代.
老人ホームも女子寮も相部屋だった時代.
橋幸夫が全世代のアイドルだった時代.
北林谷栄とミヤコ蝶々が、死のうと思ってやってきた浅草で出合い、街をさまよう.
浅草ロケの撮影は見事で、今井正、文句なくきっちり撮っている.
老人ホームの役者たちのジジババぶりが見物.
これを「喜劇」と題付けた理由は、どら焼きの盗難や嫁のいびりは、
本人がどれほど苦悩しようが、死を選ぶ理由として滑稽であると、作者が考えたからだろうか.
しかし今井正、ほんとうは何か訴えたいのだ.
老人が死にたいと思っている社会は尋常ではない、と.
しかしどう描いても、この老人たちも料理屋の若い店員(十朱幸代)たちも、とてつもなく健全にみえる.
ふいと事故で死んでしまう人の良いセールスマン、木村功の笑顔が甦る.
意図的な死もふいの死も、そこから先は一緒で、
婆たちにどんな世界が望みかと問うたら「まぁ、こんなもんじゃねぇの」と言うだろう.
老人ホームのフォークダンスを妙なストップモーションにしたのは、作者が「老人問題」を探しあぐねているようだ.
老人はみんな役者で、人生を踊っているのだ.

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