錆びたナイフ

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2012年12月15日
[映画]

「パンズ・ラビリンス」 2006 ギレルモ・デル・トロ

「パンズ・ラビリンス」


少女が主人公のファンタジー、
と思って観ていると、背負い投げをくらう.
かなり暴力的で残酷なシーンは、とても子供向けの映画ではない.
スペイン・フランコ政権下の悪辣軍人とレジスタンスの話である.
最後はファンタジーが現実を圧倒し、あっと驚く結末・・はない.
現実とファンタジーの接点はない、のである.
まるで妖精やパン(牧神)は、少女の頭の中にしか存在しなかったように、
現実の悲劇は可憐な主人公さえも呑み込む.
(フツーの映画ではありえない)
レジスタンスが勝利しても解放感・・はない.
少女にしか見えない/行けないファンタジーの地底世界も、とても楽しそうな所に思えない.
ここではない何処かへ脱出することを夢見た少女と、父の威光にコンプレックスを抱き続けたサディスト軍人の末路が、どちらも哀れに思える?
そんなことを意図して作ったのだろうか.
例えばスピルバーグなら、
軍人や少女の母の描写に陰影とユーモアがあり、少女は天真爛漫で全く違った映画になったろう.
ストーリーの上では、決して悲劇ではないのだが、この映画の作者は、この世にもあの世にも解放はない、と考えていて、
ほんとうはそんなことはないと「少女」に言ってほしかったのだろうか.
泥だらけの洞窟で蝦蟇と闘う少女は、言われるままに無垢の戦いをしている.
掌に目玉を持った怪物は不気味な意味不明で、なんだか作者の分身にさえ思える.

思えば、同じく子供達がファンタジー世界の王様/王女様におさまった「ナルニア国物語」の、なんとノーテンキだったことか.

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