錆びたナイフ

back index next

2012年12月8日
[本]

「ぼおるぺん 古事記 (一)(二)」 こうの史代

「ぼおるぺん 古事記-1」
「ぼおるぺん 古事記-2」


登場する神々は現代風のキャラクターだが、
古事記のエネルギーと天真爛漫さがよく出ていて、
これほど若くて生き生きとしてそして悲痛な伊邪那岐命(いざなきのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)を見たことがない.
マンガはコマ割りの絵を並べて、映画に匹敵する時間の緩急を操ることができる.
つまり画像に句読点が打てるのである.
この作者、かなりの手練れと思う.

「故是(かれここ)に天照大御神(あまてらすおほみかみ)見畏(みかしこ)みて、天石屋戸(あめのいはやと)を閉ぢて刺(さ)しこもり坐(ま)しき」
全編この手の読み下し文である.
ゆっくり読んでいくと、コトバがチカラとイノチをもっているような、強い印象を受ける.

そして、喜びや悲しみや怒りや排泄物から、まるでiPS細胞の如く、八百万の神が次々と生まれる.
古事記の圧巻は、須佐之男命(すさのをのみこと)に殺された大気都比売神(おおげつひめ)だ.
「故(かれ)、殺さえし神の身に生(な)れる物は、頭(かしら)に蚕(かいこ)生(な)り、二つの目に稲種生(な)り、二つの耳に粟生(な)り、鼻に小豆(あずき)生(な)り、陰(ほと)に麦生(な)り、尻に大豆生(な)りき
故是(かれここ)に神産巣日御祖命(かみむすひのみおやのみこと)これを取らしめて種と成しき」
死から五穀と豊饒が生まれる.
この激しい現実肯定は、人類というより、本来、生命が備えているものだ.

home