錆びたナイフ

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2012年11月14日
[映画]

「馬鹿まるだし」 1964 山田洋次

「馬鹿まるだし」


ハナ肇のでかい顔を見ていると、何とも言えないおかしみと哀しみを感じる.
山田洋次監督3作目.
その後の喜劇の典型がもう出来上がっている.
労働者と「インターナショナル」を歌うと「人生劇場」になってしまうのが山田流だ.
今は懐かしいクレイジーキャッツの面々が登場.
ハナ肇はこの後も山田の映画で「馬鹿が戦車でやってくる」「なつかしい風来坊」「一発大必勝」で活躍する.
山田洋次の真骨頂は初期の喜劇映画だと思う.
これに「吹けば飛ぶよな男だが」を加えて、日本映画の至高と言っていい.

山田洋次の喜劇には、何処か底知れないところがあって、私は怖いと感じる.
主人公ヤスさん、殴り込みに行くというこの映画のクライマックスで、
皆に利用されているだけだとマドンナに諭され、絶望しても、もう行くしかない、のである.
「いつまでも待っています」と藤純子がいう東映のヤクザ映画に比べて、
なんとはるかに悲劇的なことか.
そして、
ダイナマイトで吹き飛ばされるかという時に、ニカァ〜と笑って手を振るスローモーションのシーンに、
観客はもう、笑うしかない、のである.
こういう空恐ろしさを持った映画監督は、他にビリー・ワイルダーくらいしかいないと思う.

赤ん坊のように「ニカァ〜」と笑って、この男は天国へ行ってしまった.
その後白木蓮の花影に現れ、桑野みゆきにあっしは汚ねえ、と伝えたのは、
亡霊だったのだ、と思う.

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