錆びたナイフ

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2012年11月10日
[本]

「飢餓からの脱出」 宮本常一

「飢餓からの脱出」


宮本常一は古参の民俗学者だが、内容は読みやすくとても面白い.
表紙の写真が古くてソンをしている.
今年出版された本である.

戦争中の食料統制によって初めて、誰もが白米を主食とすることができた.
(それまではそうでなかった)
そして、日本人が飢えから解放されたのは昭和30年以降だという.
空腹で死ぬ、というのは、動物の、人類の、永遠の恐怖だった.
今、食料が足りているというこの国の状況は、
数万年前の石器時代から見て、たった60年程度の話なのだ.

食べ物がなくて、
藁(わら)を粉にして、サトイモの餅に混ぜて食べる話が出ている.
とても喉を通らないので、囲炉裏の端をつかんでぐっと呑み込んだという.
(冬に動物が木の皮なんぞを食べるのも、こうしたことだろうか)
「食べる」ことを「グルメ」などと呼ばず、
ひたすら、日本人は飢えを満たすためにどうしたか、
ということを、
民俗学の深い知識と広範なフィールドワークを元に解き明かしている.
読んでいてある種の開放感があるのは何故だろう.

生き延びるための食料保存で、
塩漬けや天日干しや発酵、そして味噌や醤油が生まれる.
興味深い話だが、
飢えの時代があまりに長かったので、
料理という文化は、
人類の歴史ではオマケのようなものに見える.
餓えから脱出することを通して人類は「人間」になったのだろうか.
それは飛躍ではなく、紙一重の違いではないかという気がする.

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