錆びたナイフ

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2012年10月9日
[本]

「折口信夫論」 松浦寿輝

科学的精神の形成


万葉集や源氏物語の中に、我々に近しい人間の感情を感じたとしても、
千年前の人々の特に生や死に関する思考は、今では推測すらできないのではないか、と感じることがある.
折口信夫(おりくち しのぶ)の「死者の書」を読むと、その異様な感触とともに、
折口は我々には見えていない古代の世界を見ている、という気がしてくる.
人間と神と生と死をつらぬいた常闇と豊饒の世界である.

著者の松浦は、折口の語り口に魅せられ、
愛憎半ばするように、鋭い批判で折口に挑む.
「大嘗祭は、憑依であり、贈与であり、受託であるとしても、決して新たなものの到来でもなく生産でもない。
『発生』とは、誕生ではなくむしろ反復なのである。・・・だから、これは徹底的に不毛な婚姻であるとも言える。」
多角的で精緻な論理にも関わらず、
この書が対象もろとも「した した した」と洞窟内をさまよっているような感じがする.
どこにも空が見えない.

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