錆びたナイフ

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2012年9月21日
[本]

「寅さんとイエス」 米田彰男

「寅さんとイエス」


「男はつらいよ」から豊富なエピソードを提示する筆力は確かで、映画のシーンをありありと思い出す.
イエスの挿話は豊富な知識に裏付けされている.

「おう、博、さくら、迷惑かけたな
 おいちゃん、おばちゃん、世話になったな
 いんだ、いんだ
 おれは、見かけの通りの渡世人だ、いい加減な男だよ
 おれがやるこたぁみんな空回りで、
 そんなたいそうなもんじゃねぇんだ
 あとは、笑うしかねぇだろ、なぁさくら
 兄ちゃんはいつも泣き笑いだったけど
 世の中にはな、涙も出ねえほどつらい思いをしてる人もいるんだ
 泣けるうちは花なのよ
 おう、満男、青年は恋をして泣け!
 それから、あいつらによろしくな
 そう、あの、あいつらよ
 じゃぁな、あばよ!」

ナザレのイエスと柴又の寅次郎と、
人間の弱さと愚かしさをよく知っていたこの二人には、共通点があった、のだろうか.
昔「右も左も寅次郎」という松竹が出したCD-ROMがあって、
その中に、歴代のマドンナが「寅さん!」「寅ちゃん!」と呼ぶ声だけをずらりと並べたのがあった.
それを聴いたとき、この男は、ほんとうにたくさんの女から愛されたのだ、と悟った.
これは、成仏できるわけがない.
「愛されてばかりいると星になる」のである.
もうひとりのお方も、そうだと思う.

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