錆びたナイフ

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2012年9月16日
[映画]

「黒いオルフェ」 1959 マルセル・カミュ

「黒いオルフェ」


リオのカーニバル、3日間の、神話の恋の物話.

高層ビルの谷間を見下ろすショット.
人気のない道路をヒロインが歩いているのが小さくみえる.
遠くから音楽が聴こえる.
カメラがパンすると、
遠方のビルの間をカーニバルの行列が通り過ぎる.
風に乗った紙テープが画面を横切る.

夕暮れ.
貧しい人たちの住む崖の上に、二人が座っている.
エウリディスの名前を知ったオルフェが、
急に真顔で「ゆるしておくれ」という.
遠い爆音を残して、飛行機が夕空を横切る.
このとき、この男は、現世を越えてしまった.

夜明け前、カーニバルが終わって閑散とした大通り.
エウリディスの亡骸を抱いて歩くオルフェの脇を、
散水車が通り過ぎる.

強烈なサンバの音楽が全編にあふれる一方で、
こういう静寂なシーンが各所にある.

失踪人の役所や、土着の宗教や、死体安置所をめぐって、
冥府へ去ったエウリディスを求めるオルフェが哀れ.
最後は恋の神話を繰り返すように、子供達の歌声で終る.

冒頭、船でリオにやってきたエウリディスは、
冥府から現世に、
オルフェを呼び戻しに来たのだ.

何度見ても、見事としかいいようがない作品.
もう半世紀前の映画になってしまった.

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