2023年1月29日
[本]

光の二重スリット実験から、量子コンピュータまで、おなじみの話がならんでいる.
この書は、科学史のなかで、それらをかっちりとむすびつけて見せてくれる.
ブルーバックスの入門書というより、大学の教科書のようだ、というのが正直な感想.
夜空に「星」が見える.
著者は、まず星の発する核融合エネルギーを計算し、何光年という距離を隔てて、地上にいる我々の目に、どれほどの光のエネルギーとして到達するかを計算してみせる.
その上で、光が「波」であるなら、とても見きわめられないが、
光が「粒子」であるなら、光子のエネルギーで網膜のタンパク質を十分に変化させることができる、という.
つまり、夜空に星が見えるのは、光が「粒子」であるからだ、という.
こういう説明の仕方はユニークだが、実はこの説明は、何度読み返してもよくわからない.
要するに、人間の網膜が、粒子としての光に反応している、ということらしい.
この本には、一般向けの科学書では珍しく、数式が出てくる.
「ハイゼンベルクの行列式」
「シュレディンガーの波動方程式」
「ファインマンの経路積分法」
偉大な先人たちが発見したこれらの数式は、どれも量子のありさまをあらわしているという.
著者は、大学生レベルの数学知識が、量子の本質を理解する基礎だ、と考えているようだ.
有名な「EPRパラドックス」とか、「ベルの不等式」「アスペの実験」「量子もつれ」「量子コンピュータ」といった話も、数学的な裏付けをもとに説明しようとしている.
「ベクトルの内積」とか昔習った覚えはあるが、私のような読者には難解で、ふ〜むとうなるしかない.
そしてつまり、これらの数式が世界の根源なのだ、と著者は言う.
同時に、その量子のふるまいが、人間の常識的な世界観とは大きく違っているというのが、著者の言いたいことだ.
「量子の絡み合いは時空を超える」
アインシュタインも疑った「不気味な遠隔作用」が、量子の世界では実際に起こる.
著者はさかんに、人間の五感に頼った常識の方が間違っている、と言う.
この書の副題は「宇宙を支配する究極のしくみ」
謎が謎を呼ぶ科学の紆余曲折の果てに、人類はここまで到達したのだ.
量子力学とその実験結果との、整合性の高さを見よ!
我々人類は、宇宙の根源に迫りつつある.
その中心にあるのは「数学」と「精度の高い観測」
「数学」という「聖書」の中に、世界の真実が書き込まれているという、物理学者たちの信念は揺るがない.
現代物理学の正しさは、たとえばスマホが、実証している.
一方で、この書には、幼稚な還元主義が隠れている.
光りを受けた網膜が電気信号を脳に送り、脳がその信号を処理して「物」を認識する、とか、人間は左右の目の視差で距離を認識するといった、ステロタイプの常識論がポロリと顔を出す.
こういう単純発想は、言ってみれば、太陽が東から登ってくるのだから天動説、というのと変わらない.
例えば赤ん坊がネコを見たとき、その網膜に映っているのは、ネコを含む視野の全てである.
そこからどうやってネコを「見る」のか.
「脳がその信号を処理して」とは、いったい何のことか.
しばしば物理学者が口にする、こういった人間への無知と無関心に、私はため息が出る.
人間の五感に基づいた世界観は必ずしも真実ではないが、数学と実験に基づいた物理学は真実だ、と、学者たちは考えている.
しかし、数学と実験を、人間は、五感以外のどんな方法で認識するというのだろう.
数学はあたかも、人間を超えて、神のように、あまねく世界に君臨しているのだろうか.
『人の脳は、それぞれのセンサー(五感)からやってくる電気信号のすべてと整合するように(例えば目の前にある)「本と呼ばれる物体の想像図」を構築します。
本の存在にリアリティを感じるのは、この想像図が五感を通じて得られた情報のどれとも矛盾しないからです。
これは私たちが認識しているすべての物事について言えます。 極論でもなんでもなく、私たちは最初から「世界そのもの」など見てはいません。
見ていると思っているものはすべて、五感を通じて行われた 「測定」と矛盾しないように構成された世界の想像図です。』
と著者は主張するが、
「シュレディンガーの波動方程式」もまた「世界の想像図」であって、「世界そのもの」ではない、と私は思う.
では、「世界そのもの」とは、いったい何か.

この本を知ったのは、YouTubeの「のもと物理愛」という番組で、これは、面白い.
なかなかの美人で早口の「のもと」さんは、いきせききって物理学を語る.
単なる科学の概説や礼賛ではなく、核心的なポイントは外していない、(と思われる)ところがいい.
おすすめは、
「【宇宙の果て】宇宙の事象の地平面」
https://youtu.be/tcP9wAkSd-s
「【エントロピー】時間の矢は人間がつくり出している!?」
https://youtu.be/MZ4h6rBDnHU