錆びたナイフ

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2016年1月10日
[映画のセリフ]

「ヒゲのしんぺえしてどうするだ」

黒澤明「七人の侍」 その3

「七人の侍」


野武士から村を守るために侍を雇うことにしたが、しかしいざ侍が来るとなると、村人の万造(藤原釜足)は娘の志乃(津島恵子)が心配でたまらない.
「侍にあまっことられたら村は治らねえし」と不平を言う.
その時、村長(高堂国典)のセリフ.
「野伏せり来るだぞ!
 首が飛ぶちゅうに、ヒゲのしんぺえしてどうするだ」
けだし名言.

万造は、侍に目をつけられないよう男になれと、志乃の髪を切ろうとする.
志乃は嫌がって逃げ回り、村中大騒ぎになる.
だが結局この娘、戦いの前の晩、若い勝四郎(木村功)と結ばれてしまう.
万造の杞憂が現実になったのだが、
戦い終って、つまり侍の仕事が終って、勝四郎は志乃を気にするが、娘はケロリとして田植唄を歌っている.
そういうこともあったわね、という顔.
黒澤映画の女性の中では出色の出来.

生きるか死ぬかという大事な時に、つまらない事で騒ぐなというのがこのセリフの意味だが、そういう時に人間は、思いがけないことをする.
ニンゲンは、首を斬られるという時に、ヒゲの心配をする、のである.

「七人の侍」は、日本映画では珍しく、警句(アフォリズム)にあふれている.
真骨頂はこの村長(むらおさ)だろう.
水車小屋に住むこの老人、野武士の襲来を予想してうろたえる村人に、
「やるべし」
闘え、という.
そりゃむちゃだ、と村人.
村長「侍れえ雇うだ」
食わせるだけで百姓のために戦う侍があるべいか、
侍れえは気位が高けえだ!
「ええい、腹の減った侍えさがすだよ.
 腹が減りゃあ、熊だって山降りるだ」

こうして集った七人は、単に腹が減った侍ではなかった.
勘兵衛(志村喬)は優れたリーダーであり、菊千代(三船敏郎)はこの物語のジョーカーであり、村長は預言者だったのだ.


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